りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017/11 騎士団長殺し(村上春樹)

毎回同じストーリーとか、伏線が回収されないとか、不自然さが目立つとか、ジャンル小説に敬意が足りないなどの批判もあるのですが、やはり村上春樹ワールドは素晴らしいのです。ついでに「村上春樹エピゴーネン」とも言われる伊坂幸太郎さんの作品をまとめ読みしましたが、伊坂さんは「大江健三郎派」だったのですね。塩野七生さんの『ギリシア人の物語』は、全3巻読了後に評価しようと思います。


1.騎士団長殺し(村上春樹)
「妻からの別れ話」に始まる、肖像画家の自分探しの旅が行きつく先は、やはり異世界です。「顔のない白いスバル・フォレスターの男」とは内面の影であり、「二重メタファー」とは意味の消失なのでしょうか。「イデア」を殺害することと、ナチス強制収容所南京事件に象徴される暴力性とは、どう関わっているのでしょうか。読者の数だけ答えがありそうですが、もっと絞り込んでほしいというのは、叶わぬ願いなのでしょう。

2.母の記憶に(ケン・リュウ)
紙の動物園でアジア的SFの新境地を開いた著者の、第2短編集です。戦勝国日本が登場する歴史改変、中国史から題材をとった歴史ファンタジー、西洋的AI社会への違和感、未来社会における家族観などをテーマにした16編が収録されています。おすすめは「草を結びて環を銜えん」、「カサンドラ」、「訴訟師と猿の王」、「万味調和-軍神関羽アメリカでの物語」です。

3.火星に住むつもりかい?(伊坂幸太郎)
「現代の魔女狩り」ともいうべき「平和警察制度」が施行されている未来社会。たったひとりで平和警察に挑戦する「正義の味方」の正体や動機は何だったのでしょう。ダークな世界を描きながらも、意外なラストには救いも感じられます。伏線を放置する村上春樹作品の後に読んだせいか、巧みな伏線がすべて回収されていく展開が心地よく感じられました。



2017/11/30