りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2023/7 Best 3

1.サピエンス全史 上下(ユヴァル・ノア・ハラリ) 他の動物や人類の中でのサピエンスの優位を確立した「認知革命」と、人口と富を増大させてグローバル化への道筋をつけた「農業革命」と、さらに爆発的な変化をもたらした「科学革命」は、人類を幸福に導…

掌に眠る舞台(小川洋子)

「舞台」とは劇場に限られたものではありません。見られていることを意識して演技する者と、それが演技とわかりながら見る者がいる場所は、全て「舞台」なのでしょう。そして誰でも人生の「舞台」に立つことはできるのです。静かに語られる8編の物語は「舞…

世界SF作家会議(早川書房編集部/編)

コロナ危機開始直後の2020年7月から2021年2月にかけて、全3回にわたって放送されたフジテレビの特番を書籍化したもの。第2回だけ見ましたが、SF作家らしい発想が随所に発揮されていました。喧々諤々の議論を聞きたかったのですが、そこはまぁ…

世界の終わりの天文台(リリー・ブルックス=ダルトン)

「どうやら人類は滅亡するらしい」から始まる紹介文はショッキングですが、本書の中では人類がたどった運命は明らかにされません。代わりに描かれるのは、何の情報も持たずに孤独の極みに遺された2組の人々の物語です。 ひと組めは最後の撤収便への搭乗を拒…

くらやみガールズトーク(朱野帰子)

デビュー直後の『海に降る』や『駅物語』、最近では『わたし、定時で帰ります。』などの著書によって、「ガールズお仕事小説作家」の印象が強いのですが、この人のデビュー作が『マタタビ潔子の猫魂』であったことを思い出しました。本書は「女性であるが故…

流浪蒼穹(郝景芳)ハオ・ジンファン

中国の人気SF作家であるケン・リュウ編のアンソロジーのタイトルになった『折りたたみ北京』で、日本でも有名作家になった著者ですが、これまで『郝景芳短篇集』や『人之彼岸』の短編集しか紹介されていませんでした。本書は邦訳されたはじめてのSF長編…

不死鳥と鏡(アヴラム・デイヴィッドスン)

1950年代から70年代にかけて独特の奇想小説、SF、ファンタジー、ミステリを書いた著者の作品は、『どんがらがん』と『エステルハージ博士の事件簿』に続いて3作目。どちらも河出書房新社の「奇想コレクション」と「ストレンジフィクション」の1冊…

愚者の階梯(松井今朝子)

江戸時代の狂言作者の末裔で、大学講師の桜木治郎が探偵役を勤める「歌舞伎界のバックステージ・ミステリー」の第3作。『壺中の回廊』と『芙蓉の干城』と合わせて「昭和三部作」の完結編になるのでしょう。 昭和10年、満州国皇帝溥儀が来日した際の奉迎式…

こうしてイギリスから熊がいなくなりました(ミック・ジャクソン)

「クマのプーサン」や「テディベア」は有名ですが、イギリスの野生の熊は11世紀に絶滅しているそうです。かつて実在した熊たちは、単なるキャラクターに置き換わってしまったのです。本書は、イギリスから熊が消えるに至った物語を、寓話的な8つの物語と…

混沌の城 上下(夢枕獏)

西暦2012年に起きた大異変によって文明社会は崩壊。あらゆる大陸が移動し、月が地球に近づき始め、世界中で大地震が起こり、突然変異種が無数に発生し、妖魔のような生命体が跋扈し始めたのです。それはいったい何が原因だったのでしょう。 大異変から数…

青いパステル画の男(アントワーヌ・ローラン)

遺失物を巡って心温まるストーリーが展開されていく『ミッテランの帽子』や『赤いモレスキンの女』の著者のデビュー作は、骨董蒐集から始まる物語でした。 オークションハウスで自分そっくりの肖像画を発見したパリの弁護士ショーモンは、運命的なものを感じ…

説教したがる男たち(レベッカ・ソルニット)

『災害ユートピア』で日本でも有名になった著者による、フェミニズムをテーマとした強烈なエッセイです。ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で紹介されていたので、読んでみました。 のっけから男性に対して手厳しい。「…

興亡の世界史20.人類はどこへ行くのか(青柳正規編)

通史として「世界史」をシリーズで読んだのは、これで3回目。はじめは1978年に出版された中央公論社刊『世界の歴史(全16巻+別冊1巻)』。次が2003年に出版された創元社刊『世界の歴史(全10巻)J・M・ロバーツ著』。そして今回が2007…

ヴァイゼル・ダヴィデク(パヴェウ・ヒュレ)

1957年にグダニスクに生まれた著者は、30年前に同じ街で生まれたギュンター・グラスの直系にあたります。『ブリキの太鼓』を思わせる郵便局や馬や魚というモチーフが登場する本書は、グラスの作品との類似も指摘されているようですが、著者によれば「…

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2(ブレイディみかこ)

人種も貧富も学力もごちゃまぜな、まるで世界の縮図のような「元・底辺中学校」に入って、悩みながらも成長してきた息子は、13歳になりました。「そろそろ」と思っていたら「やっぱり」起こったのが、思春期特有の問題ですが、それだって単純ではありませ…

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 1(ブレイディみかこ)

アイルランド系の英国人男性と結婚して、ブライトンという海辺の町で保育士もしているライターの著者が、中学生の息子と一緒になってさまざまな問題を考えていくノンフィクション。2019年の本屋大賞「ノンフィクション本大賞」も受賞しています。 公立な…

興亡の世界史19.空の帝国アメリカの20世紀(青柳正規編/生井英考著)

2022年6月から読んできた「興亡の世界史シリーズ(全21巻)」も、いよいよ大詰めです。この後は、現代人が直面する問題を多角的に論じる『人類はどこへ行くのか』という巻があるだけなので、世界史としては、本書が事実上の最終巻なのでしょう。 本書…

母の待つ里(浅田次郎)

花巻駅や空港から1時間ほどの距離というから、遠野近郊の鄙びた村なのでしょう。東京で身を立て名を挙げた一人息子の数十年ぶりの里帰りを迎えてくれるのは、村で暮らし続けた幼馴染や、菩提寺の住職や、子供の頃を知る近所の老人たち。そして茅葺き屋根の…

グリーン・ロード(アン・エンライト)

風光明媚なアイルランド西海岸を舞台にして、母親と子供たちの再会を中心に据えた家族ドラマですが、身につまされることも多いのです。進学や就職で家を出た息子や娘が、新しい環境で新しい生活を営んでいる間、親は実家で年老いていくというのは、洋の東西…

オールドレンズの神のもとで(堀江敏幸)

散文の名手である著者が、10数年に渡って書き綴った18作の掌編が1冊に纏まっています。これといった事件も起こらず、ドラマ性もない普通の日常生活の積み重ねであるのに、記憶というものの豊饒さが感じられます。 故郷で再会した同級生。時の経過の中で…

亥子ころころ(西條奈加)

武家出身の菓子職人・治兵衛、出戻り娘のお永、孫娘のお君が営む麹町の小さな菓子屋「南星屋」を舞台とする江戸人情話のシリーズ第2作。前作『まるまるの毬』では、お君の縁談が破談となった顛末が、思いがけない治兵衛の出自と絡めて語られましたが、本書…

残月記(小田雅久仁)

2009年の日本ファンタジーノベル大賞受賞者による、月をモチーフとした中編集。あえてジャンル付けをするなら、ダーク・ファンタジーというところでしょうか。3作とも想像力の限界に挑戦しているようです。 「そして月がふりかえる」 突然月が裏返って…

ヘーゼルの密書(上田早夕里)

直木賞候補にもなった『破壊の王』に続く、日中戦争時の上海を舞台とする歴史フィクションです。もともと「バイオSF」を得意分野とする著者は『破壊の王』では細菌兵器を取り扱っていたのですが、本書にはSF的な要素はありません。 1939年の上海。既…

15秒のターン(紅玉いづき)

2007年に『ミミズクと夜の王』でメジャーデビューした著者による短編種です。最初期の「15秒のターン」から、デビュー15年を経た現在の書下ろしである「十五年目の遠回り」まで、どの作品にも著者らしいみずみずしさが溢れています。 「15秒のター…

サピエンス全史 下(ユヴァル・ノア・ハラリ)

著者は、サピエンスが発展してきた3つの過程とは、「認知革命」、「農業革命」、「科学革命」であると言い切ります。他の動物や人類の中でのサピエンスの優位を確立したのが認知革命であり、人口と富を増大させてグローバル化という方向性をもたらした源泉…

サピエンス全史 上(ユヴァル・ノア・ハラリ)

臆面もなく「賢いヒト」と自称する私たち「ホモ・サピエンス」の歴史には、どうやら不穏な秘密が隠されていそうです。およそ20万年前に東アフリカに現れたサピエンスの世界への広がりとともに、各地の大型動物が絶滅しているのです。それだけではありませ…