デビュー直後の『海に降る』や『駅物語』、最近では『わたし、定時で帰ります。』などの著書によって、「ガールズお仕事小説作家」の印象が強いのですが、この人のデビュー作が『マタタビ潔子の猫魂』であったことを思い出しました。本書は「女性であるが故に怖い目に遭う」ことをテーマとしたホラー小説だったのです。社会と個人の狭間で生まれる怪談は、物語として成仏させる必要があるようです。
「鏡の男」
一人の独立した人間であることを認めてもらえず、「娘」とか「嫁」としかだ誰かの附属物としてしか扱われない。こんな体験をしたことのない女性は少ないのではないでしょうか。鏡の向こうには、何物にも脅かされていない、しっかりした表情の自分が映っているのに。
「花嫁衣裳」
やはり名字の問題は深刻なのです。「結婚する時、自分は死んだって思うことにした」という女性もいるくらい。名字とは、社会がかけてくる呪いなのでしょうか。
「ガールズトーク」
蒐集されたこけしたちのガールズトークは不気味です。誰かの所有物であることが、そんな会話をさせるのでしょうか。
「藁人形」
恋人が既婚者であると知らされた女性は、彼を呪って丑の刻参りをするのです。しかしそこで、誰かに呪われた自分の名前を発見するとは!
「獣の夜」
子供を産んだ女性は、古い命の抜け殻になってしまうのでしょうか。自分の命は子供に移ってしまうのでしょうか。しかし人間でなくなっても、子育ての本能は残るのです。
「子育て幽霊」
自分を産んだ時の母の写真は、まるで死人のようでした。それから自分を美しく復元した母だったのに、今度は認知症にかかってしまうなんて・・。「もう私のために頑張ってくれなくていいんだよ」との娘の思いはmどこに届くのでしょう。
「変わるために死にゆくあなたへ」
「祝福組」ではなく「そうでない組」の女子は、地味にひっそりと生き続けなくてはいけないのでしょうか。「祝福組男子」に恋をすることなど、身分不相応なことなのでしょうか。
「帰り道」
弟が生まれて両親から無視された時、初めて振袖を着た時、好きな人ができた時、お嫁に行った時、子供を産んだ時・・「生きながら死んだ思い」をした女性が乗るバスは、もちろんこの世のものではありません。バスに乗り続けていればおうちに帰れるけれど、こんなバスに乗ったことは覚えておいたほうが良さそうです。
2023/7