りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015-01-01から1年間の記事一覧

2015 My Best Books

今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみます。 長編小説部門(海外) アルタイ(ウー・ミン) 4人の匿名イタリア人作家集団による共作です。「レパントの海戦」の前夜、トルコ王のもとでキプロスにユダヤ人の王国を建設するという夢を共有し…

2015/12 エピローグ(円城塔)

現代SF作品の最先端をいく、円城塔とイーガンの新作を読みました。前者はサイバー世界の行きつく果てをメタフィクションとして、後者はサイバー世界への入り口を近未来ものとして描いています。同じSFでも、ディストピアものである『ダスト』は、3部作…

新生(瀬名秀明)

小松左京の到達点にして未完に終わった大作『虚無回廊』へのオマージュ的作品です。もとの作品を読んでいないと、こういう作品の理解は難しいですね。何しろ、人工実存の開発者・遠藤秀夫、妻・アンジェラ、研究所のダン兄弟、天才的言語学者のミシェル、前…

アクアマリンの神殿(海堂尊)

近未来を舞台にして、冷凍睡眠に関わる倫理問題をテーマにした『モルフェウスの領域』の続編です。 難病の治療技術が確立するまで「コールドスリープ」に入っていた少年・佐々木アツシは、彼と入れ替わって眠りについた日比野涼子の生命維持管理をしながら、…

プリティ・モンスターズ(ケリー・リンク)

「ヤングアダルト」とも「ファンタジー」とも言われる作風ですが、間違いなく独自の世界を持っている作家です。この人も「ひとり1ジャンル」ですね。 「墓違い」 死んでしまったガールフレンドの棺桶に自作の詩を入れた少年は、原稿を取り戻すために彼女の…

三谷幸喜のありふれた生活12 とび(三谷幸喜)

このエッセイ、2000年から朝日新聞に週1回連載されているといいますから、かなりの長寿です。2012年後半から2013年前半の連載を収録した第12巻では、愛犬「とび」との悲しい別れが綴られています。前妻の小林聡美さんがネコたちを連れて出て…

分解(酒見賢一)

著者初期の中短編を収録した文庫です。デビュー作『後宮小説』から、大力作の『陋巷にあり』、執筆中の『泣き虫弱虫諸葛孔明』に至るまで、「中国史」に題材を採った作品が多い中で、異色の作品が揃っています。 「ピュタゴラスの旅」 数学家にして哲学家、…

天切り松読本(浅田次郎)

四半世紀に渡って書き続けられている人気シリーズの第5巻『ライムライト』の発売を記念して出版された「公式読本」です。第4巻出版後に編まれた「読本」のリニューアル版ですね。 このシリーズが、著者の処女作であり「一番の兄貴分」とは知りませんでした…

トーイン(キアラン・カーソン)

『琥珀捕り』の著者であるベルファスト出身の詩人が語り直した、古代アイルランド伝説の英雄譚は、荒々しい息吹に満ちています。古代から伝わる物語は、放置され、忘れられ、下手に手を入れられて荒れ果てていたものの、「廃墟ではなく遺跡だ」と、著者は語…

ゼンデギ(グレッグ・イーガン)

ゼンデギとはイラン語で「人生」のこと。現代ハードSFの第一人者が、現代から近未来のイランを舞台にして、仮想現実と仮想人格の可能性を描いた作品です。 第1部は現代。というより、2012年が舞台ですから、ちょっと前のこと。オーストラリア人記者の…

ダスト(ヒュー・ハウイー)

「サイロ3部作」の完結編では、2人の女性の苦闘が交互に描かれていきます。 第1部『ウール』のヒロイン・ジュリエットは、一度出たら生きて帰れないといわれる外界から帰還し、サイロ18の市長となっていました。30年前に滅ぼされたサイロで生きのびた…

あくじゃれ瓢六(諸田玲子)

直木賞候補となった、痛快時代小説です。主人公は、芸者お袖の情人になっている、瓢六という謎めいた色男。賭博の手入れの際に捕われた際、江戸で頻発していた悪評の高い武家や商家に対する強請との関係を疑われ、なかなか牢屋敷から放免させてもらえません…

フランス王朝史2ヴァロア朝(佐藤賢一)

『カペー朝』に続く、「フランス王朝史3部作」の第2弾です。イングランドとの百年戦争とともに始まり、宗教戦争の中で終わった王朝は、来るべき絶対王政時代に向けての「長い助走期間」だったようです。 幸運王フィリップ六世(1328~1350) カペ…

エピローグ(円城塔)

「ハードSF」の行きつくところは「ソフトSF」なのでしょうか。この時代、現実宇宙はOTC(オーバー・チューリング・クリーチャ)に征服されており、人類は「n次シミュレーション宇宙」に退転を繰り返すばかり。要するに人類はソフトウェアでしかない…

真壁家の相続(朱野帰子)

祖父の死を境にして、崩壊寸前になった真壁一族の物語が、大学生の孫娘りんの視点から描かれていきます。遺産だって家一軒しかないのに、ひとりひとりは悪い人ではないのに、なぜ遺産相続問題が起きるのでしょう。『海に降る』のドラマ化によってブレイクし…

陽だまり幻想曲(楊逸)

日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した著者による、中編2作品。2010年に出版されています。 「ピラミッドの憂鬱」 一人っ子政策で大切に育てられてきた中国の青年は、2人の親と4人の祖父母に支えられているピラミッドの頂点。裕福な…

3時のアッコちゃん(柚木麻子)

『ランチのアッコちゃん』の続編です。美味しそうな料理を小道具に使って、働く女性たちが一歩を踏み出す姿を描いた連作短編集。はじめの2作では主役級の活躍をするアッコちゃんが、あとの2作ではカメオ出演程度なのも、前作と同様です。 「3時のアッコち…

馬琴の嫁(群よう子)

滝沢馬琴の一人息子・宗伯に嫁いだ路(みち)のことは、山田風太郎さんの『八犬伝』で知りました。そこでは、視力を失った馬琴と、「八犬伝」を口述筆記した路の協業が、「虚実冥合」を化現した「超人的聖戦」とまで讃えられています。カナ文字しか知らなか…

複成王子(ハンヌ・ライアニエミ)

アルセーヌ・ルパンをベースにしたサイバーパンク・スペースオペラの第2作です。前作『量子怪盗』にて、過去の記憶と謎の箱を取り戻した怪盗ジャン・ル・フランブールと、彼を「ジレンマの監獄」から救い出した戦闘美少女ミエリは、意識を持つ宇宙船ペルホ…

生まれるためのガイドブック(ラモーナ・オースベル)

11の短編のテーマは「生命」に結びつくさまざまなことがら。「誕生」妊娠」「受胎」「愛」などのキーワードを巡るちょっと不思議な物語。こういう作品は、往々にしてヌラッとした気持ち悪さを残しがちなのですが、どの作品も読後感が意外と爽やかなのが、…

ラ・ミッション-軍事顧問ブリュネ(佐藤賢一)

幕府に招聘されて近代的な精鋭部隊「伝習隊」を鍛え上げたフランス軍事顧問団は、鳥羽伏見の戦いの直後に解任されました。強大な戦力を有していた徳川幕府は、闘わずして自壊したのです。幕府勢力の残党が戊辰戦争を起こした時、ブリュネ中尉とフランス人下…

波止場浪漫(諸田玲子)

主人公の「波止場のおけんちゃん」は、実在の人物です。幕末から明治にかけての清水港の大親分・次郎長の養女となり、次郎長と妻のおちょうを看取ることになった女性。本書は、彼女が20歳前だった明治20年代と、40歳をすぎた大正初期を交互に行き来し…

2015/11 パールストリートのクレイジー女たち(トレヴェニアン)

今月の1位は、トレヴェニアンの遺作となった自伝的な作品にしました。途中まで、「クロニクル4部作」が凄い作品だと思っていたのですが、最終巻のエンディングの読後感が悪すぎます。まだ20代と若い時代小説作家・谷津矢車さんの作品には「伸びしろ」を…

上野池之端鱗や繁盛記(西条奈加)

騙されて江戸にやって来た少女・お末の奉公先は、話に聞いていた有名料理店ではなく、連れ込みまがいの料理屋「鱗や」でした。しかし、少しでもお客を喜ばせたいというお末の熱意は、入り婿の若旦那を動かし、名店と呼ばれた昔の姿を取り戻す挑戦が始まりま…

洛中洛外画狂伝(谷津矢車)

1986年生まれの、若い時代小説作家のデビュー作です。主人公は戦国末期に現れた稀代の天才絵師、加納永徳。名門の嫡男でありながら伝統や常識を超越したことは、若くして家督を弟の宗秀に譲った後に、安土城、聚楽第、大阪城の障壁画を制作したことが証…

馬律流青春双六-ふりだし(谷津矢車)

著者は1986年生まれというから、まだ20代。小学校5年生の時にマンガ「るろうに剣心」を読んで時代劇にはまったという、恐ろしいくらいに若い書き手ですが、結構おもしろい。日経新聞の書評欄で昨年の作品である『蔦屋』が絶賛されていたので、まずは…

パールストリートのクレイジー女たち(トレヴェニアン)

物語は、著者の投影と思しき6歳の少年が、ニューヨーク州都オールバニーのスラム街であるパールストリートに引っ越してきた時から始まります。時代は1936年。若い母親ルビーと3歳の妹アン・マリーの3人は、長く不在だった父親から指定された住所にや…

神秘列車(甘耀明)

「白水社エクスリブリス」で2冊続けて、台湾の若い世代の作品が紹介されましたが、2人の作風は大いに異なっています。『歩道橋の魔術師』の呉明益(ウー・ミンイー)は台北生まれの都会派であるのに対し、先住民族と共に暮らした客家を先祖に持つ甘耀明(…

まんまこと5 まったなし(畠中恵)

『まんまことシリーズ』の第5巻にあたります。『しゃばけシリーズ』ともっとも異なっている点は、妖が登場しないことよりも、時間が流れていることなのでしょう。本書でも、麻之助の親友・清十郎と、かつて麻之助が想いを寄せていた清十郎の義母・お由有の…

もののけ、ぞろり(高橋由太)

「時代劇ファンタジー」なのでしょうが、全体構成も、場面描写も、クォリティの高さを感じることができませんでした。発想が優れているのかとも思ったのですが、巻末の解説を読むと、あるコミック作品の設定を借用しているだけのようですし。なぜか続巻も出…