りぼんの読書ノート

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朝が来る(辻村深月)

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既にドラマ化され映画化も決まった作品は、なるほど現代的ドラマ姓に満ちています。登場するのは1組の家族と1人の少女。物語はまず、高層マンションで暮らす幸福そうな家族の情景から幕を開けます。幼稚園に通うひとり息子の朝斗は素直な少年であり、両親もまた息子を心から愛しています。しかしそこに「息子を返して欲しい」という謎の電話がかかってくるのでした。 

 

実はこの夫婦は、長く辛い不妊治療の末に妊娠をあきらめ、特別養子縁組という手段で息子を授かっていたのです。その際にまだ幼さの残る女子中学生の実母とは面会していたものの、個人情報は守られているはずなのに、なぜその女性は朝斗のことを知ったのでしょうかそもそもその女性は、本当に朝斗の実母なのでしょうか。 

 

物語はそこから、朝斗の実母である片倉ひかりの物語入っていきますなぜ彼女は中学生時代妊娠し子育てをあきらめ両親のもとを飛び出して自分の居場所を失い、不幸な転落の道を歩んでしまったのでしょうか。朝斗の養父母前に姿を現したひかりは、自分の生んだ息子に愛情を注いでいた女子中学生と同一人物とは思えない存在にまで変わってしまっていたのです。 

 

このような物語にどのような結末を迎えさせたら良いのか、難しいところです。著者は未来への光がほの見えるエンディングを用意してくれましたが、それですべてが良い方向に向かうことが約束されているものではありません。血縁関係はないもののしっかりした絆結ばれた家族と、血の繋がりはあっても相互の信頼を失ってしまった家族の対称が印象的な作品でした。実用的な意味合いでは、予期しない妊娠を予防する必要がある中高生にお勧めします。 

 

2019/9