りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ははのれんあい(窪美澄)

「家族の形」に変化をもたらす要因はたくさんあります。結婚、離婚、出産、独立、転居、不和、病気、同居、別居、そして死別。本書は、否応なしにもたらされる変化に翻弄されながらも懸命に家族を守ろうとする母と息子の視点を通して、家族の在り方を見つめ直した物語です。

 

はじまりは由紀子の結婚でした。はじめて実家を出て、優しい夫と築いた2人だけの家族。しかし、実家の家業である婦人服縫製の仕事を継いだ夫を手伝う穏やかな日々は、家業の傾きによる失業と、長男・智春の出産によって変化していきます。タクシー運転手となった夫の収入が激減したことで、息子を保育園に預けてパートに出る由紀子。懸命に毎日を生き抜いている中で起こった次の大きな変化は、義母の死と、双子の出産と、夫の浮気でした。

 

高校1年生になった長男・智春の視点から描かれる第2部では、家族の形は大きく変化しています。両親は離婚しており、会社の管理職となって家族を支える由紀子を助けて小学生の弟たちの面倒を見る智春は、家族を捨てた父親のことを許せません。しかし同級生に恋をしたことで彼も、新しい家族を築くことになった父親の生き方を許容できるようになりました。さらに大きく家族の形を変化させそうな母親の恋愛にも、冷静に向き合うようになっていくのです。智春が恋愛感情と縁遠かった背景には「恋愛は家族を破壊する」との思い込みがあったようにも思えます。

 

子供の頃には永続すると思っていた「家族の形」が、年月の経過とともに変化し続けることに気付いたのはいつのことだったでしょうか。少なくとも自分が大学に入って家を出た時ではなかったはず。しかし家に残った両親や妹たちにとっては、大きな変化だったのかもしれません。そんなことに気付かされた作品でした。

 

2022/12