りぼんの読書ノート

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阿蘭陀西鶴(朝井まかて)

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異端の俳諧師として吟じた数万句の作品は、芭蕉の1句に及ばず、浄瑠璃作者としては近松のような美学センスを持ち合わせなかった井原西鶴が切り開いていったのは「戯作」の道でした。

遊里を舞台にした前代未聞の『好色一代男』。封建社会の一途な恋愛を題材にした『好色五人女』。日本初の経済小説『日本永代蔵』、庶民の生活を描いた『世間胸算用』など、革新的な作品を次々と発表して「浮世草子」というジャンルを創造していったのです。

本書は、その「井原西鶴」という人物を、盲目の娘・おあいの視点から描いていきます。若くして妻を亡くして娘と二人暮らしをしながら創作活動に全てを賭けた西鶴は、「はた迷惑なお父はん」でしかありません。「ええ格好しい」で身勝手で目立ちたがり屋であることを見透かされた父親が、娘に嫌われるのは当然ですね。

しかし、そんな父娘関係が、次第に変化していくのです。書きながら音読する癖のある西鶴の横にいて『好色一代男』の内容を知ったおあいは、「実」から「虚」を生み出す父親の才能と懸命さに気づくのです。さらに、父親が照れて隠していた、娘に対する愛情と秘密にも・・。この作品は、父親と盲目の娘が紡いでいく家族の絆から、西鶴の作品を貫く「人間性」を読み解いていこうとしているのでしょう。

山本音也ひとは化けもんわれも化けもん西鶴を描いた小説ですが、こちらはもっと作品寄り。西鶴が、銭や色恋に右往左往する自分の人生の面白さに気付いて、戯作に目覚めるまでの物語となっています。

2015/5