1950年代のシドニーを舞台としたノワール・ミステリというのは、初めて読みました。3部構成で、第1部の冒頭からいきなり死体が登場。罠にはまりそうになった小悪党の主人・ビリーが、ブラフを武器に悪徳警官や街の顔役を相手に立ち回るという展開。
第2部になって、マッカーシズム吹き荒れるアメリカ・スパイや、クロアチアの元ナチス組織ウスターシャの残党が登場。さてはオーストラリア版『第三の男』なのか・・との期待は、軽々と打ち砕かれます。本書の時代背景としては、ロックンロールやロカビリーやブルースのほうが、はるかにウェイトが高いのです。
第2部はまだ「ロックの前夜」でしたが、第3部ではついに「ロックが上陸」。スプートニクが上空を飛ぶ中、不良少年少女たちが集まるコンサートを背景に、宝石泥棒事件の顛末が語られていきます。オネエキャラの黒人ロッカーが暴走するなど、いかにも軽そうな内容なのですが、第1部の事件の真相が明らかになって新たな殺人に至るという展開は本格的で重い。
麻薬の「炎と煙」を「龍」にたとえて、「はじめは龍を追う者が皆、龍に追われるようになる」などという東洋的思想まで散りばめられた作品なのでした。しかし、脇役の中国人の小悪党の仇名が「ジャップ」というのは、やめて欲しかったなぁ。
2015/5