りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014-12-01から1ヶ月間の記事一覧

2014 My Best Books

今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみます。 長編小説部門(海外) 図書室の魔法(ジョー・ウォルトン) 上巻、下巻 1979年に15歳であった女性が、SF作品の読書と「魔法」体験を通じて成長していく物語。著者自身を思わせる主人公…

2014/12 おだまり、ローズ(ロジーナ・ハリソン)

ランク外にしましたが、柚木さんの『早稲女』は面白かったですね。男でも女でもない「第三の性」が、早稲田の女子学生とは、意表を衝いてくれるものですが、なぜか説得力あり。そういえば、今月に3冊も一気読みした朱田帰子さんは「早稲女」です。 1.おだ…

フラニーとズーイ(J.D.サリンジャー)

1951年に『キャッチャー・イン・ザ・ライ』で華々しくデビューした著者が、1955~57年にかけて「ニューヨーカー」に発表した小説です。 前半の「フラニー」は、文学的でシンプルです。名門の大学に通うグラス家の美しい末娘フラニーが、エゴと欺瞞…

ポースケ(津村記久子)

『ポトスライムの舟』の主人公ナガセが本書で再登場します。あれから五年たち、正社員として働いているようで何よりですが、本書の主人公はナガセではありません。彼女の友人のヨシカが店主をしている喫茶店「ハタナカ」に集う人々が描かれる群像劇となって…

キケン(有川浩)

児童文学家の石井桃子さんが「大人になってからのあなたを支えるのは、子ども時代のあなたです」と言っていますが、「子ども時代」の定義は「子ども心を持っている期間」と読み替えてもいいのかもしれませんね。本書に登場する、大学時代を「爆発的熱量」と…

海うそ(梨木香歩)

昭和初期、南九州の遅島に調査に入った若い地理学者・秋野は、明治以降の変化の中で急速に失われつつあった「島の原型」を求めて歩き回ります。廃仏毀釈の大波は、修験道によって開かれた寺院を破壊し、僧侶を離散させ、さらには伝説を消し去ろうとしていた…

早稲女、女、男(柚木麻子)

「早稲女」とは、早稲田大学に通う女子学生のことであり、「プライドが高く、負けず嫌い。ガサツな言動が目立つものの、意外と母性的で世話好き。自意識過剰で面倒くさい。芋っぽい。元ガリ勉。酒豪」だそうです。立教出身ながら「早稲女が好き」という著者…

天冥の標6.宿怨 Part 3(小川一水)

異星人カルミアンの超絶テクノロジーによって、たちまち地球を征服したプラクティスですが、問題は山積みです。人体改造の代償として生殖能力を失い(女王的存在であるイサリとミヒロの姉妹は別)、凶暴な「咀嚼者(フェロシアン)」に転落していく兆候を見…

天冥の標6.宿怨 Part 2(小川一水)

冒頭で、異種族「カルミアン」の正体が明らかにされます。実はミスチフ(オムニフロラ)の宇宙規模の侵略と超新星忌避に早くから気づいて、母性を赤色巨星化しながら超新星化を回避するという超絶技術を有する昆虫系の異星人カンミアだったのです。 太陽系の…

天冥の標6.宿怨 Part 1(小川一水)

『前巻』から150年後の2499年。不治の感染症・冥王斑患者として人類世界から500年もの間、締め出され続けていた「救世軍(プラクティス)」の「宿怨」が、ついに噴出してきます。彼らが有する圧倒的な武器とは、原種の冥王斑ウィルスと、驚異的な…

ハヤブサが守る家(ランサム・リグズ)

12歳の時に第二次世界大戦前のポーランドから逃れてウェールズに移り住み、後にアメリカに渡った祖父が、奇妙な言葉を残して殺害されてしまいます。祖父が語っていた奇妙な場所や不思議な人々は、混乱した記憶の産物にすぎなかったのでしょうか。 祖父の殺…

ゼラニウムの庭(大島真寿美)

18世紀の作曲家ヴィヴァルディと、彼が音楽を指導したヴェネチアの孤児院の女性たちとの交流を描いた前作『ピエタ』が、2012年本屋大賞3位となった著者の新作です。 小説家のるみ子は、祖母・豊世(とよせ)の死の直前に、「一族の秘密」を書いてほしいと…

蛹令嬢の肖像(ヘザー・テレル)

フェルメールを思わせる17世紀オランダの画家によって描かれた少女は、蝶へと生まれ変わろうとしている蛹を見つめていました。「蛹」という通称で呼ばれているその絵画は、どのような思いで描かれたのか。かつての所有者は、ナチスの時代になぜ「蛹」を手…

おだまり、ローズ(ロジーナ・ハリソン)

「子爵夫人付きメイドの回想」との地味な副題がついていますが、もともとこちらがオリジナルのタイトル。本書は、邦題のほうが原題を上回っている稀な例ですね。「おだまり、ローズ」とのタイトルに、型破りな貴婦人と、それに負けていないメイドの関係が凝…

インド式マリッジブルー(バリ・ライ)

イングランドの地方都市レスターに住む13歳のマニーの親友は黒人、ガールフレンドは白人、将来の夢はサッカー選手かミュージシャンか小説家。学校の成績だって悪くない。それでも父親からは「まともになれ」と殴られる。マニーは、閉鎖的で自分たちの伝統…

マタタビ潔子の猫魂(朱野帰子)

新人作家の登竜門であった「ダ・ヴィンチ文学賞」の第4回対象受賞作です。 主人公は、聖武天皇の時代から生きているという妖猫のメロ。現代日本にただ1人残っている「夏梅種(マタタビ)の家系」の女性・田万川潔子と巡り合って、同居中。ただし一族に伝わ…

桜庭一樹短編集

2006年から2012年までに書かれた6作品を収録した短編集です。『少女七竈と七人の可愛そうな大人』や『赤朽葉家の伝説』で颯爽とメジャーデビューした頃に始まって、現在に至るまでの時期がカバーされているんですね。年代順に並んでいますので、作…

悟浄出立(万城目学)

『鴨川ホルモー』から『とっぴんぱらりの風太郎』まで、近畿限定の伝奇ファンタジー小説を著してきた著者の新作の題材は、中国の古典でした。しかも、歴史や物語の脇役に焦点を当てて、「俺はもう、誰かの脇役ではないのだ」と覚醒させていくのですから、ワ…

いそさん(米村圭伍)

質屋の若旦那で病弱な清次郎が、突然連れ帰って居候させた男、通称「いそさん」とはどんな人物で、どんな事情があったのでしょう。 周囲の者たちの不審な思いを余所にして、若旦那といそさんのコンビは、小さな奇跡を起こしていきます。例会を開くことにした…

リザベーション・ブルース(シャーマン・アレクシー)

ワシントン州のスポーカンインディアン居留地で生まれ育ち、居留地外で高等教育を受けて作家となった著者による、現代インディアンの現実をマジカルかつユーモラスに描いた作品です。以前読んだ『ローン・レンジャーとトント、天国で殴り合う』は短編集でし…

ビブリア古書堂の事件手帖 5(三上延)

美貌の古本屋店主・篠川栞子が古書に関わる謎を鮮やかに解いていく人気ミステリの第5巻。このシリーズを通じて流れている2つの大きなストーリーラインが、この巻で交差することになります。 ひとつは、このシリーズの語り手で、古書店でバイトをしている五…

駅物語(朱野帰子)

著者は本書のことを『海に降る』に次ぐ「のりものシリーズ第2弾」と言っています。ただし、「鉄分」は増えたものの「科学色」は減っていますね。この著者には、できれば「空想科学小説」、そうでなくても「科学小説」を期待していましたので。 一流大を卒業…

真実への盗聴(朱野帰子)

『海に降る』で深海への思いを科学的に描いた著者の次作のテーマは、「高齢化社会における遺伝子治療」でした。とはいえ、難しいことは何もなく、描かれているのは、前作と同様に人間です。 少子高齢化によって年金は破綻し、世代間の対立が激しくなっている…

フランス革命の肖像(佐藤賢一)

フランス革命の主人公たちの顔を、どれだけ知っているでしょうか。革命で倒されたルイ十六世やマリー・アントワネットや、革命に幕を引いたナポレオンの肖像画は有名です。革命の主役となったロベスピエール、劇的な暗殺シーンがダヴィッドに描かれたマラー…

昏き目の暗殺者(マーガレット・アトウッド)

年老いたアイリスが書き遺した一族の物語は、悔恨の歴史だったのでしょうか。妹ローラ、夫リチャード、娘エイミーの死の真相に至るには長い物語が必要だったのです。「悲劇とは長い悲鳴ひとつですむものではない、そこに至るありとあらゆるものを含んでいる…

キャリア警部・道定聡の苦悩(五十嵐貴久)

東大卒のキャリア組ながら、配属先の県警で起きた不祥事のために現場に配転された道定聡、25歳。頭はいいものの、容姿には恵まれず世間にも疎い新米エリート警部が組まされたのは、警視庁きっての問題児の山口ヒカル。スタイル抜群で絶世の美女ながら、性…

ツリーハウス(角田光代)

満州から引き揚げてきた祖父と祖母から始まる、敗戦、戦後の混乱期、朝鮮戦争、高度成長、六〇年安保、オーム事件などの「大きな物語」に翻弄されてきた、三世代の家族の物語。語り手である孫の良嗣が、自分の家族に対して抱いている違和感の正体とは、いっ…