りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

2016/10 黒い本(オルハン・パムク)

ケン・リュウさんがアジア的感覚で紡ぎ出す「シルクパンクSF」は面白いのですが、どうしても、下敷きである『項羽と劉邦』と比較してしまいます。オリジナルの物語を知らない人の方が楽しめるかもしれません。「その後」の物語となる「第3部」に期待しま…

黒い本(オルハン・パムク)

ノーベル賞作家が、国際的なベストセラーとなった『わたしの名は紅』の前に著した小説が、ついに邦訳されました。四半世紀も前の1990年の作品ですが、未だに色褪せてはいません。 物語は、イスタンブールの青年弁護士であるガーリップが、トルコ語で「夢…

古書奇譚(チャーリー・ラヴェット)

シェイクスピアの正体については、「ストラットフォード出身のシャクスピア」ではないと考える「別人説」が複数あって、それぞれ「論拠」を展開しているものの決め手がないというのが実情のようです。そんな中で、大文豪の正体を明らかにする自筆本の存在は…

竜と流木(篠田節子)

篠田節子版の「ジュラシック・パーク」ですね。南海の孤島の「楽園」で、可憐な姿を持ち「水の守り神」として親しまれていた両生類ウアブが、悪魔的な変容を遂げてしまう物語。 きっかけは、ウアブが棲んでいた島の泉が開発によって干上がってしまったことで…

トルコ捨駒スパイ事件(ボリス・アクーニン)

日本語の「悪人」からペンネームをつけたというロシア人作家による、「ファンドーリンの捜査ファイル・シリーズ」の第2作です。今まで4作品が翻訳されていますが、本書を読み落としていました。1作ごとにジャンルを変えて趣向を凝らしているシリーズとい…

マルクス最後の旅(ハンス・ユルゲン・クリスマンスキ)

『資本論』などの著書によって科学的社会主義思想を確立したカール・マルクスは、1883年に亡くなる前年に、病気療養のためアルジェに滞在したそうです。往復の経路には、パリ,マルセイユ、カンヌ,モンテカルロなどが含まれているのですが、行く先々か…

ナイルパーチの女子会(柚木麻子)

大手商社に勤める30歳のキャリアウーマン・栄利子は、海外淡水魚の輸入に携わっています。その関係で、外来種のナイルパーチが他の種を食べつくして生態系を破壊し、駆除対象とされていることを知って、気の毒に思います。ナイルパーチだって、他の生態系…

花や散るらん(葉室麟)

『いのちなりけり』の主人公であった雨宮蔵人・咲弥夫妻の「その後」を、「忠臣蔵の真相」と絡めて描いた作品です。『蜩ノ記』の前に直木賞候補となっていました。 著者は、「忠臣蔵」の背景には、幕府と朝廷の対立があったと解釈します。そしてその双方に大…

泣いたらアカンで通天閣(坂井希久子)

前月に読んだ『ウィメンズマラソン』が面白かったので、他の作品も手に取って見ました。 コテコテの大阪・新世界を舞台にした本書は、まるで十数年後の『じゃりん子チエ』。放蕩親父ゲンコと、しっかり者の一人娘センコを中心に繰り広げられる人情悲喜劇。不…

蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ二 囚われの王狼(ケン・リュウ)

『紙の動物園』で鮮烈な日本デビューを果たした、アジア的感覚を持つSF作家による、『項羽と劉邦』を下敷きにしたハイ・ファンタジーです。『巻ノ一 諸王の誉れ』と本書とで、とりあえずの完結ですが、続編もあるとのこと。 ザナ帝国(秦)打倒の戦いの中…

西行(白洲正子)

1190年2月に73歳で亡くなった西行が生きたのは、保元・平治の乱から平家滅亡に至る平安末期の動乱の時代。23歳で出家した後、諸所に草庵を営みつつ、しばしば諸国を巡る漂泊の旅に出た西行が見つめ続けたものは諸行無常の乱世だけだったのでしょう…

焼野まで(村田喜代子)

大震災直後に子宮ガンを告知されて、「福島で放射能被害が起きている中で、放射線治療を受ける」ことの違和感を覚えた著者が、自身の分身のような女性を主人公に据えて生命の根源を問いかけさせた作品です。 主人公の和美は、特殊な放射線治療を選択して、九…

貧乏お嬢さまと王妃の首飾り(リース・ボウエン)

スコットランドに所領を持つ貧乏公爵の令嬢で、第34位の英国王位継承権を持つジョージーを主人公とするシリーズも、本書が第5作め。ということは第3作と第4作を読み逃していますが、本書を読むうえでは障害にはなりません。たぶん・・。 超貧乏な生活を…

彼女に関する十二章(中島京子)

主人公の宇藤聖子は、更年期を意識し始めた50歳。夫の守とは結婚25周年というから、人生の半分が結婚生活だったわけです。夫が仕事で参考文献とするという、約60年前のベストセラーであった伊藤整のエッセイ『女性に関する十二章』を読み始めたことを…

偽りの楽園(トム・ロブ・スミス)

『チャイルド44』にはじまる、スターリン体制下の保安省捜査官デミドフのシリーズで人気を博した著者の新作です。 スウェーデンの農場を買って幸せな老後生活を送っているはずの両親から、思いがけない連絡が入ります。父親のクリスからは「お母さんは病気…

シェイクスピア物語(ラム)

今から約130年前に、英国のメイリイ・ラムとチャールス・ラムの姉弟によって書かれた「あらすじで読むシェイクスピア」です。少年少女向けのダイジェスト版ですが、古い言い回しを大切にして時代の空気を壊すことなく、原作の世界観をわかりやすく描いて…

活動寫眞の女(浅田次郎)

1997年に出版された、比較的初期の作品です。昭和44年、京都の大学に入ったものの、排他的な京都の町に馴染めないでいた薫が知り合ったのは、京都の名家に生まれ育った同級生の清家忠昭。2人には、大の日本映画ファンという共通点があったのです。 古…

万華鏡の迷宮(J・ロバート・ジェインズ)

「ナチ占領下のフランス。そんな異常な世界でも犯罪は起き、それに立ち向かう者たちがいる」のは当然なのでしょうが、事件の捜査に派遣されたのは、生粋のフランス人警部サンシールとゲシュタポの鬼刑事コーラーという異色コンビ。シリーズ化されているよう…

西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン(ロベール・ド・ボロン)

「アーサー王伝説」にも登場する、中世最高の魔法使いマーリンの物語。ジェフリー・オヴ・モンマスの『ブリテン年代記』で最初に言及されて以降、さまざまな物語で描かれてきたマーリン像について、集大成を試みた物語。感想を書くというより、覚書として纏…

掌の中の小鳥(加納朋子)

カクテルリストが充実している小粋なバー「エッグスタンド」での会話は、加納さんが得意とする掌編ミステリ。細やかな気遣いをしてくれる女性バーテンダーや、何でもお見通しといった風の紳士と共に、謎めいた会話を楽しむ若いカップルの心は通じ合うのでし…

結婚式のメンバー(カーソン・マッカラーズ)

20世紀半ばのアメリカ南部の風土を舞台にした傑作が、村上春樹さんの新訳で復活。南部の田舎町で、父と従弟と女料理人と暮らす日常に倦んだ、多感で孤独な少女の心理が、みずみずしく描かれた作品です。 むせかえるような緑色の夏。12歳の少女フランキー…

夜の子供たち(ダン・シモンズ)

チャウシェスク政権崩壊から約半年後のルーマニア。ブカレストに赴任してきたアメリカ防疫センターの女医・ケイトは、劣悪な環境と拙劣な医療技術のもとで多くの子供達が死亡していくことに、無力感を募らせていました。そんな中で面倒を見ることになった重…

まっさら(田牧大和)

主人公の六松は、1年前までは掏摸だったものの、江戸で評判の清廉潔白な目明し「稲荷の紋蔵」に見出され。十手持ちとしての見習い修行を始めた若者。生まれ変わって真っ当な人間になるという決意を新たにするための「真っ平、真っ新(まっさら)」という言葉…