りぼんの読書ノート

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いつもが消えた日(西條奈加)

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もと神楽坂芸者で今でも粋はお蔦さんをホームズ役、同居している孫で中学生の望をワトソン役とする「ご近所ミステリ」兼「望クンの成長物語」である「お蔦さんの神楽坂日記シリーズ」の第2作です。第1作無花果の実のなるころにでは、比較的軽いテーマが扱われていましたが、本書ではいきなり大事件が発生。

なにしろ、望の中学校の後輩で天才サッカー少年・有斗の家族が、いきなり消えてしまうのです。しかも家の中には大量の血だまりが。連絡を聞いて即座に、有斗を家に泊めることにし、子供のころから知っている警察署員を呼びつけて捜査に当たらせるお蔦さんですが、この事件の根は深いものでした。背後には、20年前に遡る事情があったのです。

事件のキーワードは「カード破産」だったのですが、この言葉は、バブルが崩壊しはじめた1992年頃の新語だそうです。そういえば宮部みゆきさんの火車は、この年の作品でした。

ミステリなのでネタバレは書けませんが、お蔦さんの毅然とした対応や、わずかなヒントから身近にいた人物の「善意の共犯性」を疑う推理の見事さには、ほれぼれしますね。望クンも、学校で有斗に心無い仕打ちをする学友たちに毅然とした対応を取るあたり、やはり血筋です。古くからの結びつきである神楽坂商店街のメンバーたちの一致団結ぶりも、羨ましい限り。

望クンが作る料理が美味しそうなことも、このシリーズの魅力です。両親は仕事で北海道に行っており、唯一の同居人であるお蔦さんが全く料理をしないせいなのですが、中3でこの腕前はないだろうと思うほど。飲食店や料理人の多い神楽坂という土地柄も、関係しているのでしょうか。

2017/5