りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

無花果の実のなるころに(西條奈加)

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父の転勤に同行せず、神楽坂の祖母と暮らすことを決めた中学二年生の望。元芸者で女優歴もあり、不思議な人望を持つ祖母の「お蔦さん」と一緒に暮らす中で、望が少しずつ成長していく様子を描いた連作短編集です。最近では「時代小説作家」の印象が強い著者ですが、ファンタジーノベル大賞を受賞したデビュー作金春屋ゴメスでは、少年たちが「現代の江戸」を体験する物語を描いていたことを思い出しました。

「罪かぶりの夜」
友人の洋平が「自転車からの蹴とばし魔」として警察に捕まってしまいますが、どうやら誰かをかばっている模様。しかし洋平がかばった女生徒もまた、真実を述べているわけではなさそうなのです。「罪をかぶると、かばった相手から憎まれるようになる」という、お蔦さんの言葉は重いですね。

「蝉の赤」
学園祭の日、料理が得意な望がひっぱりだこになっている最中、美術部で展示中の絵が破られるという事件が起こります。お蔦さんの名推理は当たっているのでしょうか。美術部の先輩が憧れている、乾蝉丸という放浪の画家は、その後も意外な形で登場します。ついでながら、望は同級生の翠(ミドリ)に失恋。

無花果の実のなるころに」
神楽坂で頻発する振り込め詐欺の犯人は、どうやって被害者宅の内情を知ったのでしょう。お蔦さんにもかかってきた電話を受けた望は、何を想ったのでしょうか。謎の美少女・楓が初登場。

「酸っぱい遺産」
お蔦さんの芸者時代の客だった中小企業の社長が、所有している会社の株券をお蔦さんに遺贈するという遺言を残して亡くなります。長男は相続放棄を迫ってくるのですが、お蔦さんは亡き社長の真意を汲み取った対応をするのです。

「果てしのない嘘」
楓の母が負傷して入院。その場にいて逮捕された男は、未婚ながら楓の父親だという男性。実は彼こそが画家の乾蝉丸であり、複雑な関係ながら望の親族だというのです。さらに同級生の父親も絡んでくるのですが、お蔦さんは望にも「大人の話」を伝えます。誰もが潔白とは言い切れない真実も重いし、秘密を守ることはもっと重いのですが。

「シナガワ戦争」
友人のモテ男・彰彦の家に遊びに行った際、彰彦の彼女と間違えられたミドリが不良高校生に捕まったという電話が入ります。望たちは、ミドリ奪還作戦に乗り出すのですが・・。お蔦さんに叱ってもらえば早いんですけどね。

チェキチャキのお蔦さんは魅力的で、元神楽坂芸者仲間や客が絡む話は面白いのですが、それ以外は平均点といった作品でしょうか。

2017/4