京極夏彦さんのデビュー作です。「この世には不思議なことなど何もない」という、陰陽師の流れを組む古本屋の京極堂こと中禅寺秋彦が、怪奇事件の陰にある憑物を落として事件を解決していく、異色ミステリのシリーズ第1作。
神秘主義や非合理主義を排除してなお実在する「仮想現実」こそが「呪い」であるとする著者の立場は、もう有名ですよね。久遠寺涼子と梗子の姉妹に隠された秘密は、「呪い」としか言いようもないものだったのですが、それは久遠寺の歴史が生み落とした、リアルに「忌まわしいもの」だったのです。
本書は、京極堂の友人である関口巽の視点から語られていますが、被害者とも加害者とも不思議な因縁があった関口は「信用ならざる語り手」にほかなりません。見るべきものが見えず、見えないものが見えてしまう関口こそが、曖昧模糊とした京極ワールドの記述者としてふさわしい人物なのです。
2014/10