りぼんの読書ノート

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今昔百鬼拾遺 天狗(京極夏彦)

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百鬼夜行シリーズ」のライトバージョンで、本編の主人公である京極堂こと中禅寺秋彦の妹の敦子が、女子高生の呉美由紀をバディ役として活躍する「井今昔百鬼拾遺シリーズ」の第3弾です。

 

挨拶に訪れた薔薇十字探偵社で美由紀が出会ったのは、失踪人捜索の依頼に来ていた篠村美祢子お嬢様。彼女の友人・是枝美智栄が高尾山中で消息を絶ったというのです。さらに2か月後に友人の服を来た別の女性・葛城コウが、高尾山とは同様に天狗伝説がある群馬の迦葉山で死体となって発見されたのです。しかも葛城コウと同性愛関係にあった天津敏子が、是枝美智栄が行方不明になる直前に高尾山で自殺していたというのです。これだけでもややこしい事件ですが、もうひとり、別の女性も高尾山で行方不明になっていました。これらは全て、天狗の仕業なのでしょうか。

 

高尾山に捜索にきた美由紀と美祢子は、なんと落し穴に落ちて出られなくなってしまいます。幸い2人は救出されるのですが、実はその落し穴こそ事件を解決に導く鍵でした。もうひとつのヒントは、いなくなった女性は4人、死体は2つ、見つかった衣服は3つだけということ。数が合っていませんよね。偽装の限界だったようですが、誰が何のために複雑な偽装工作を行ったのでしょう。その背景には、自分の歪んだ信念のために他者を犠牲にすることを厭わない、天狗のような傲慢さがあったようです。

 

中禅寺敦子が事件の真相を推理して、呉美由紀が純真な女学生らしくキレて当事者たちを納得させ、事件を解決に導くという構成は、「鬼」や「河童」と一緒ですね。このシリーズの型のようです。篠村美祢子お嬢様もいいキャラなので、続編があるのなら再登場して欲しいものです。能弁な理論家という点で中禅寺敦子とキャラが被っている感もありますが、美由紀に言わせると敦子は現実に立脚し、美祢子は理想に軸足を置いているという違いがあるようです。

 

2020/10