りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

植物図鑑(有川浩)

イメージ 1

「男の子に美少女が落ちてくるなら女の子にもイケメンが落ちてきて何が悪い!」との発想で書かれた冒険恋愛小説ですが、本書の「冒険」はちょっと変わっています。

飲み会帰りの晩、一人暮らしのマンションの前で、捨て犬のように行き倒れていた男を放っておけずに部屋にあげ、カップラーメンを提供したさやか。翌朝、冷蔵庫内のありあわせの材料で男が作った朝食に感動したさやかは、共同生活を提案してしまいます。

「イツキ」とだけ名乗った男は、コンビニのバイトを始め、家事全般をこなしていたのですが、春先のある日、近所の河川敷での「狩り」に、さやかを誘います。狩りの対象は、フキノトウ、フキ、ツクシなどの野草でした。もちろん家に帰って料理の材料になるものばかり。その後も、ノビル、セイヨウカラシナ、ワラビ、イタドリ、ユキノシタスベリヒユ・・と、季節の「野草狩り」を通じて心を通わせていった2人でしたが、やがて「イツキ」は姿を消してしまいます。2人の関係はどうなってしまうのでしょうか。

もちろんイツキはワケアリで、もちろんラストはベタアマのハッピーエンド。文字通りの「草食系男子」に魅かれていきながら、彼を失うことが怖くて踏み込めない、女性の揺れる心情をロマンティックに描くことにかけては、この著者の右に出る人はいないでしょう。野草のほろ苦さも、甘く変えてしまう、お伽噺のような作品です。巻末に野草料理のレシピも載っています。

2014/10