りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

絡新婦の理(京極夏彦)

f:id:wakiabc:20200922094025j:plain

著者の「百句夜行シリーズ」を読むのは3冊目。多重人格者が犯人であった『姑獲鳥の夏』は良かったのですが、猟奇的な『魍魎の匣』を読んで嫌になってしまったのです。久しぶりに手に取ってみたのは、ライトバージョンである「今昔百鬼拾遺シリーズ」が面白かったから。そのシリーズでは、本書で重要な役割を果たす女学生・呉美由紀が主人公クラスの活躍を見せるのです。

 

さて本書ですが、やはり猟奇的でした。物語にはホラー要素はなく、全てが精神分析を含む科学的視点と人間関係の洞察で説明されるのですが、事件そのものがグロいのです。本書では目潰し魔によって6人、絞殺魔によって3人、ジョロウグモの毒によっておそらく3人、自殺者を含むその他の殺害が5人と、なんと17人も死者が出るという大量殺人事件が起きるのです。

 

ただしミステリとしては一級です。東京の下町で起こった目潰し連続殺人事件と、房総の聖ベルナール女学院で起こる「黒い聖母崇拝」による連続不審死は、どのように結びつくのでしょう。しかも女学院の女生徒たちに売春を斡旋していたという女性と、女学院のお堅い女性教師も目潰し魔によって殺害されているのです。その背景には女学院を創設した織作一族にまつわる因縁が関係していたのですが、織作家の美しい4姉妹もまた、事件に関わっていたのでしょうか。そして全ての事件を陰から操るジョロウグモとは誰で、その意図は何だったのでしょう。

 

しかも、なんとジョロウグモとおぼしき人物は最後まで逮捕されることなく、京極堂から「あなたが-蜘蛛だったのですね」と語りかけられる対決シーンが冒頭に据えられるという思い切った構成。そしてその女性は「私はもう一生泣きませぬ。こうなった以上は誰よりも強く生きてみせましょう」と、スカーレット・オハラのような決め台詞を吐くのです。その背景には、完全に男系社会化した戦後の日本において、変質してしまった母系家族の悲劇があるのですが、そのあたりは京極堂による「憑きもの落とし」の長広舌が見事な解説になっています。この物語は次の『塗仏の宴』に続いていくのですが、読むかどうか悩んでいます。

 

2020/10

 

(参考)被害者リスト 

目潰し魔事件の被害者

・矢野妙子:犯人が借りていた家の大家の娘

・川野弓栄:女学生売春を斡旋した房総のクラブのママ

・山本純子:聖ベルナール学院の教師で舎監

・前島八千代:過去に売春をしていた呉服屋の女将

・高橋志摩子:「紅蜘蛛」の異名をとる娼婦

・織作碧:織作家の四女

 

絞殺魔事件の被害者

・本田幸三:聖ベルナール女学院の破廉恥教師

・織作是亮:織作茜の婿養子で聖ベルナール女学院の理事長

・渡辺小夜子:聖ベルナール女学院2年生

 

ジョロウグモによる毒殺事件(?)の被害者

・織作紫:織作家の長女

・織作雄之助:織作家の三代目当主

・織作五百子:織作家の最古老にして4姉妹の曾祖母

 

その他の被害者、自殺者

・麻田夕子:聖ベルナール女学院2年生。

・織作真佐子:雄之助の妻で4姉妹の母親

・渡辺小夜子の父親

・織作葵:織作家の三女

・出門耕作:織作家の使用人で是亮の父親