りぼんの読書ノート

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天冥の標3.アウレーリア一統(小川一水)

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シリーズ第3作は、近未来の地球が謎のウィルス「冥王斑」に襲われてから約200年後。人類は小惑星帯を中心に太陽系内に拡散しています。

本書の主人公は、肉体改造によって真空に適応した「酸素いらず(アンチオックス)」の人々が作り上げたノイジーラント大主教国の強襲砲艦エスレルの艦長サー・アダムス・アウレーリア。明らかに第1巻に登場したアクリラの祖先です。やはり宇宙で一大勢力となっている海賊イシスとの対決が、本書の骨格をなしているのですが、その過程でさまざまなことが明らかになっていきます。

ひとつは、檜沢千茅が率いていた「冥王斑」の患者団体が、「プラクティス」として小惑星エウレカで細々と独立していること。この時代の指導者グレアは窮状を脱するために、過去に木星で全滅した調査隊が残した秘密を手に入れようとしているのですが、海賊イシスらに狙われてしまいます。

もうひとつは、「冥王斑」患者を救おうと尽くした医師たちが、「医師団(リエゾンドクター)」として「プラクティス」を見守り続けていること。その一員であるジュノは、アダムスらと行動をともにしてグレアらを追うのですが、彼にはもうひとつの顔がありました。

4者が巻き起こす陰謀や因縁や戦闘は、まあ普通のSFです。戦いに敗れて力を失いかけたアダムスの復活劇は面白かったものの、まあ良くある話。その背後にあった展開体フェオドールとミスチフの宇宙的規模の抗争が、かつての「冥王斑」を生み、この時代における途轍もない規模のエネルギー集積体「ドロテア・ワット」を生み出したというくだりは、壮大ですがむしろ宗教的。

ほぼ同等の力を持つ両者は、がっぷり四つに組み合ったまま消息不明となりましたが、もちろん続編でも登場してくるはず。こういう存在を持ち出してしまうと、後が大変ではないかと思うのですが、いかがでしょう。

2014/10