りぼんの読書ノート

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今昔百鬼拾遺 鬼(京極夏彦)

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著者のビカレスクロマンである「巷説百物語シリーズ」は大好きなのですが、猟奇的な事件を扱う「百鬼夜行シリーズ」は苦手で、今まで数冊しか読んでいませんでした。今般新たに3つの異なる出版社からほぼ同時に発売された「今昔百鬼拾遺シリーズ」は、京極堂の妹で「稀譚月報」の記者でもある中禅寺敦子が探偵役を務めるというので、少々ライトなのではないかと思って読んでみました。

 

もちろん妖怪になぞらえられる怪事件を解決するというパターンは一緒ですが、バディ役が14歳の女学生である呉美由紀であることもあり、確かにライトバージョン。何より京極堂の長広舌がない分、本の重量もライトです。

 

呉美由紀が中禅寺敦子に相談を持ち掛けた「鬼」の事件は、転校生の彼女に親切にしてくれた学校の先輩・片倉ハル子が、「昭和の辻斬り事件」の7人目の被害者として日本刀で惨殺された事件です。ハル子はその前から「先祖代々、片倉家の女は切り殺される定めにあり、とても怖い」と言っていたとのことであり、犯人として逮捕されて自白した男が真犯人とも思えないという、ザックリした相談にすぎません。

 

敦子が調べてみると、はたして刀剣を売買している片倉家の女性たちは明治以来、新選組の鬼の副長・土方歳三の遺品の刀によって、3人も惨殺されているのです。しかしそんな因縁が、戦後にまで続いているのでしょうか。そしてハル子の交際相手だったとも名乗る片倉家で働いていた男は、あらゆる点で犯人像にそぐわないのです。

 

もちろん事件は解決されます。日本刀の魔力に魅入られたという思い込みと、互いにに親しい人をかばおうとする優しい心が事件を複雑にしていたのですが、敦子は兄とは異なって、謎解きはするものの事件を解決することはしないのですね。この役割は美由紀が純真な女学生らしくキレることで担っているようです。著者も「ミステリとしては正直大した話じゃない」と述べているのですが、「百鬼夜行シリーズ」の入門編としては本編の作品よりも手頃感があります。呉美由紀は、未読ですが『絡新婦の理』で事件に巻き込まれた人物だそうです。苦手な作品ですが、そのうちに読んでみようと思います。

 

2020/10