数多くのベストセラーを生み出したというより、「フォーサイス」という独自ジャンルを打ち立てた観もある著者が、自らの半生を綴った自伝です。幼い日にノルマンジーの田舎町から仰ぎ見た英独航空戦を闘うスピットファイアーの操縦士に憧れた少年は、どのような形で夢を叶えていったのでしょう。
15歳で大学進学資格試験に合格し、17歳で英空軍入隊、19歳でパイロット記章を手にした著者は、世界を股にかけて活躍するジャーナリストに転身します。ロイター通信社の特派員としてパリに駐在した際にはド・ゴール大統領暗殺未遂事件を間近で取材し、東ベルリン駐在時代には冷戦のスパイ戦を体感したのみならず旧ナチス残党が数多く生き残っていることに注目し、BBC放送に転職してナイジェリア内線を取材した際にはビアフラ独立戦争の実態に気づきます。
これらの体験が初期3部作である『ジャッカルの日』、『オデッサ・ファイル』、『戦争の犬たち』となって結実するわけですが、はじめは原稿の売り込みに苦労したとのこと。著者の持ち込み原稿を断った編集者たちは、さぞ後悔していることでしょう。
また著者には、英国諜報部(MI6)の諜報員であるとか、赤道ギニアのクーデターを支援したなどの噂もありますが、本書ではどちらも否定しています。前者については東ベルリン時代に荷物の受け渡しに協力したことがあるだけであり、後者については傭兵たちの作戦会議を取材しただけであると述べていますが、どうなのでしょう。
本書を読むと、フォーサイスが優れたジャーナリストであることがよく理解できます。実体験を含めた徹底的な取材から生み出される作品が、たまたまフィクションという形式を採ったわけです。著者の作品に顕著なあまりにもリアルな描写は、そうして生み出されたものだったのですね。初期の3部作を再読したくなりました。
2019/9