冷戦下の1956年に、ソ連でミュージカル「ボギーとベス」を公演することになったアメリカの劇団に同行したカポーティが綴った、ノンフィクション小説です。戦争に同行した従軍小説家などの例を除くと、当時小説家がこのような作品を自主的に書くことは珍しかったのではないでしょうか。1966年の『冷血』を経て、1973年に『ローカル・カラー/観察記録 』とともに『犬は吠える』として再出版されるまでは評価は低かったようです。
「58人の俳優、7人の裏方、2人のマネージャー、それぞれの夫人や事務方、6人の子供と教師、3人のジャーナリスト、1人の精神科医」を東ベルリンから3日3晩かけて汽車で移動させる公演は、巨大なイベントです。著名な作曲家を兄に持ち「ボギーとベス」の共作者であるガーシュイン夫人をはじめ、向こう見ずの俳優たちや、気分屋の女優たちと同行する旅が生んだエピソード群は楽しいもの。いかにもアメリカ的なミュージカルに対するソ連観客の反応も面白い。ただし解説者が指摘したように、前半はソ連に対して身構えた著者の姿勢が少々窮屈にも思えます。
ともあれ本書は、ジャーナリストによるルポルタージュとは一線を画した、ノンフィクション小説というジャンルを生み出した作品の一つとは言えるでしょう。タイトルはソ連側担当官が、一行を出迎えた際に語った「砲声ひびくとき詩神の声とだえ、砲声絶えるとき詩神の声聞こゆ」との言葉から採られています。
2018/12