りぼんの読書ノート

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ゴースト(中島京子)

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ゴーストが登場する7編の短編の全てから溢れ出て来るのは郷愁です。著者は「過去というものが、実は今を生きている人の真横に存在していることを書きたかった」と語っていますが、幽霊とは人を怖がらせるものではなく、何かを伝えるために登場するものなのでしょう。

不思議な少女に導かれるように訪れた原宿の洋館で大学生の青年が出会った、派手な化粧をした純情な女性とは誰だったのでしょう(原宿の家)。壊れた古いミシンが伝えたかったことは、歴代の持ち主がミシンに込めた希望だったのでしょうか(ミシンの履歴)。戦災孤児ケンタの霊が成仏できなかった理由は、後にひとりの少女を救うためだったのかもしれません(きららの紙飛行機)。

南方の激戦を生き抜いた祖父のもとを訪れていた「リョーユー」が伝えたかったことは、案外他愛のないことのようですが、かえって深い哀しみを感じてしまいます(亡霊たち)。可愛い『おさるのジョージ』が生まれた背景にユダヤ人の悲劇があったとは知りませんした(キャンプ)。今は取り壊された台湾人留学生寮には、どれだけ多くの人たちの思いが込められていたのでしょう(廃墟)。

そして最終話ゴーストライターで、物語は意外な着地を見せるるのです。自分の名前を出すことなく芸能人たちの代筆をする影の著者たちこそ、自分の話を一番伝えたがっている者なのかもしれません。

2018/12