りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

極夜行前(角幡唯介)

f:id:wakiabc:20190825154406j:plain


グリーンランド北西部の極夜を1匹の犬とともに往還した
『極夜行』の冒頭に記されていた、3年間の準備期間の物語。ひとつひとつの偵察…準備作業が既に大冒険となっていることをうかがわせてくれます。そしてその積み重ねがあって『極夜行』が成立したのでしょう。 

 

ます著者は、極夜の本質と向き合うために、北緯66度に位置するカナダのケンブリッジベイを訪れます。スポーツ化する現代の冒険に抗してGPS持参を拒む著者は、六分儀を用いた天体観測によって位置を確認する目的もあったのですが、素人が悪条件で用いることは難しいようです。暗黒世界で現在地点が不明になる恐怖を味わうこともできました。 

 

ともあれ北緯66度の極夜は明るい期間が長いとのことで、グリーンランドの西北部、北緯77度に位置するシオラパルクとターゲットに定め、イヌイットから入手した1歳の犬橇犬ウミヤリックとともにデポ設置の旅に出ます。白夜期間とはいえ、慣れない犬を躾けながらの旅も想定外の事件の連続。このとき著者は、ジャコウウシを撃つ体験もしています。 

 

そして『極夜行』直前に行ったカヤックでのデポ設置の旅では、カヌー専門家の山口氏の同行もあったものの、恐怖の海象の襲来、浮氷に閉ざされた海、想像を絶する海面変化によるカヤック流出に苦しめられ、達成率は半分ほど。それでも計画を修正していよいよ本番の『極夜行』に乗り出そうとするのですが・・。 

 

著者は、自ら狩猟して自ら設置したデポ備品や、自分で躾けた犬に対して、自分の分身であるかのように 

思い、それによって自分自身が属する世界が広がったとの感覚を抱いたと述べています。まるでヴォルデモートの分霊箱のようですね。『極夜行』を先に読み、デポの運命を知ってしまった者には辛く思える個所でした。 

 

2019/9