りぼんの読書ノート

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極夜行(角幡唯介)

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「極夜」とは「太陽が地平線の下に沈んで姿を見せない長い長い漆黒の夜」のこと。極夜の期間は緯度によって異なりますが、グリーランド北西部の北緯80度近い地域では、およそ4か月もの極夜が続くとのこと。既に未踏の地など残されていない現代において「新しい未知」として著者が選んだのは、極夜世界の単独行でした。
 

 

著者が拠点としたシオラパルク村は、先住民が住む集落としては世界最北の地にあり、彼らが外界の人間と接触したのはわずか200年前のことだそうです。数年かけて事前の偵察行とデポ設置行を行い、パートナーとなる犬と交流を深めて準備万端整えたものの、実際の探検は思うようには進みません。 

 

海氷の結氷状況、ブリザードの襲来、そして白熊によるデポの破壊。4ヵ月もの食料・燃料を橇で引くことは不可能であり、猟による食料自給は不確実であるため、途中でのデポ利用は必要条件なのです。そのために当初の計画は変更せざるを得なかったわけですが、結果的にはそれが良かったのでしょう。休息を予定していた極夜のピーク時に、獲物を求めて更なる奥地へと向かうことになったのですから。 

 

冒険行の危機は何度も訪れますが、愛犬を殺害して食料とする覚悟までしたことを記しておくだけでも十分でしょう。そして太陽を見ない数カ月を過ごした後に、極夜明けの最初の太陽を見て、著者は何を感じたのでしょうか。読者サイドも著者の冒険を追体験したかのように思えるのは、優れたノンフィクション作品である何よりの証拠です。 

 

2019/9