りぼんの読書ノート

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空白の五マイル(角幡唯介)

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早稲田大学探検部時代に知った「人跡未踏の地」ツアンポー峡谷の「空白の5マイル」に憧れて、大学卒業後の新聞社入社前と退職後の2度、文字通りの命を懸けた探検に挑んだ著者のノンフィクションです。2010年に出版された本書は、開高健ノンフィクション賞を受賞して著者の出世作となりました。

19世紀の大冒険時代から20世紀末に至るまで、この地域が空白地帯であったのには、もちろん理由があります。インド国境に近いチベット奥地にあり、ヒマラヤ山脈東端の7000m級の山々に囲まれ、断崖絶壁に囲まれた急流地帯が踏破困難だったことに加え、政治的理由で長らく外国人立入りが禁止されていたのです。制限が緩和された1990年代でも、カヌーでの踏破を目指した日本人隊と米国人隊が行方不明者を出して踏破を断念したほどの大秘境。

しかし、キントゥプやフレデリック・ベイリー、キングドン・ウォードらの先人たちが遺した幻の大滝の存在や、チベット仏教起源のシャングリラなどの伝説に彩られ、グランドキャニオンを遥かにしのぐという大峡谷に魅せられた著者の冒険心はとどまるところを知りません。無許可、単独でこの地に挑んだ著者は、文字通り死にそうな目に遭いながらも執拗に挑戦を繰り返し、空白の5マイルのほとんどを踏査することに成功するのです。さらに7年後の再挑戦時には、さまざまな悪条件に阻まれて未踏破地域には入り込めなかったものの、峡谷からの決死の脱出行に挑むことになります。

著者は「冒険は生きることの意味ささやきかける。だがささやくだけだ。答えまでは教えてくれない」と述べています。本書の冒険の前には、ヨットで太平洋横断やニューギニア島トリコラ山北壁初登頂を成し遂げ、後にはヒマラヤでの雪男探検やカナダ、グリーランドの極地に挑んだ著者は、何らかの答えを得たのでしょうか。「究極の部分は誰も答えることはできない」のでしょうけれども。

2019/4