りぼんの読書ノート

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最初の悪い男(ミランダ・ジュライ)

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短編集いちばんここに似合う人の著者による、はじめての長編は、やはり「孤独から逃れるために足掻く」主人公が中心に据えられています。

護身術エクササイズを広めるNPO団体に勤務している43歳で独身のシェリルは、理事である65歳のフィリップのことが気になっているものの自分から一歩を踏み出せないでいます。簡素で快適な生活を心がけているものの、「ヒステリー玉」が喉につかえている感覚から逃れられないのは、9歳のときに出会って別れた運命の赤ん坊、クベルコ・ボンディの生まれ変わりをあちこちで「発見」してしまうせいでしょうか。

そんなシェリルの生活は、美人で巨乳で衛生観念ゼロの上司の娘クリーが家に転がり込んできたことで一変してしまいます。クリーに対する不愉快感から、ついに2人は肉体的に衝突。そこは護身術エクササイズのプロ同士なので決着はつかないのですが、やがてシェリルはクリーに対して性的な妄想を抱くようになり、気が付くとヒステリー球は消えていました。やはりそれは精神と肉体のギャップから生じた感覚だったのですね。しかしそんな生活が長く続くことはありません。性的にも放縦なクリーはいつの間にか妊娠し、父親不明ながら子供は産みたいと言い出すのですが・・。

著者が描く世界は「妄想」の枠内に収まらず「奇行」の域に達しているのですが、ハッピーエンドとも言えなくもない不思議な終わり方をする作品でした。自分の情熱的な点も臆病な点も意識していなかったシェリルが、次第に自身を解き放っていく過程には、リアルさすら感じてしまいます。

2019/4