りぼんの読書ノート

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彼女に関する十二章(中島京子)

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主人公の宇藤聖子は、更年期を意識し始めた50歳。夫の守とは結婚25周年というから、人生の半分が結婚生活だったわけです。夫が仕事で参考文献とするという、約60年前のベストセラーであった伊藤整のエッセイ『女性に関する十二章』を読み始めたことをきっかけとして、聖子の周囲も慌ただしくなっていくのでした。

まずは、経理を手伝うNPO法人で知り合った、元ホームレスの初老の男・片瀬が実践する「お金を持たない生活」が気になり始めます。彼は、聖子にとっての「フーテンの寅さん」のように思えてくるのです。次いで現れたのは、父が亡くなったという知らせを持ってきた初恋相手の息子。ひょっとして、運命の出会いを逃していたのかもしれないなどと、韓国ドラマのような妄想すら浮かんでくる始末。

とどめは、女の子とつきあったこともなくゲイではないかと疑ったこともある、息子の勉。彼が突然家に連れてきた女性・チカコは、イメージしていた「息子の嫁」とはほど遠い存在だったのです。そして、既に同棲しているという2人には、さらに大きな問題が・・。

60年前のエッセイとシンクロしながら進む物語は、「平凡な人生」の意味を問いかけてくるようです。特別な事も起こらなかった「平凡な人生」とは、さまざまな重大事を乗り越えてきた結果、得られたものだったのですね。田山花袋の『蒲団』を「打ち直した」FUTONでデビューした著者の面目躍如たる作品でした。

2016/10