りぼんの読書ノート

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サンセット・パーク(ポール・オースター)

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自罰的な理由で人生を投げ捨てた28歳のマイルズは、フロリダで空き家の残存物撤去という半端仕事に就いています。生まれた直後に実母から捨てられた過去を持つマイルズは、今度は実父と養母を捨てて家を出てきたわけです。彼はピラールという未成年の女性と出会って生きる意欲を取り戻すのですが、彼女が18歳になるまで待つ必要があり、友人に誘われてブルックリンのサンセットパークの廃屋に移り住みます。

 

そこに不法滞在しているのは、まだ何物にもなれておらず、経済的にも困窮している若者たち。昔からの友人であるデブで偏屈なドラマーのビング、性的妄想が止まらない画家志望のエレン、高学歴プアの大学院生アリスらもそれぞれに悩みを抱えて立ちすくんでいるのです。それでも皆、もがきながらも次の一歩へと進もうとするのですが・・。

 

著者が30年来得意としている「モラトリアム青春物語」のようにも思えますが、本書が2008年という時代を描いた作品であることを忘れてはいけません。サブプライムローンの破綻が頻発し、やがてリーマンショックへと至るアメリカでは、捨てられた家や離散した家族が数多くいたのでしょう。そして多くの者が、経済破綻という現実的な暴力の前で無力感に打ちひしがれたのでしょう。「やむを得ず捨てられた人や物」が溢れている本書は、2008年という時代にストレートに向き合っているのです。本書において「我等の生涯の最良の年」という映画が何度も言及されています。第二次世界大戦からの復員兵が市民生活に復帰するまでの苦難をテーマとする作品なのですが、著者には2008年という年が「ひとつの戦後」に見えていたのかもしれません。

 

2021/5