りぼんの読書ノート

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ゲームの王国 上巻(小川哲)

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内戦時代から近未来にかけての半世紀にわたるカンボジアを舞台にして、不思議な縁で結ばれた2人の少年少女の物語。主人公のひとりは、クメール・ルージュの首魁であったポル・ポトの隠し子とされるソリヤ。もうひとりはカンボジア西部の貧村に生まれた、天賦の知性を有する少年ムイタック。

シアヌーク独裁政権時の1956年に捨て子として平凡な夫婦に引き取られたソリヤは、弾圧を逃れて貧しいベトナム人の老人に預けられます。やがて彼女は、他人の嘘を全て見抜く能力を身につけるのです。一方のムイタックは、何もない貧しい村で「人生というゲーム」を楽しむ方法を身に着けていきます。共通点を持たない2人が出会ったのは、クメール・ルージュが革命を成し遂げた1975年4月17日のことでした。カードゲームで互角の勝負を繰り広げた2人は、ともに初めての敗戦を経験するのです。

秘密警察、恐怖政治、密告、テロ、強制労働、虐殺が横行するカンボジアにおいて、毎日の生活は命を懸けたゲームのよう。頻繁に変更される複雑怪奇なルールに支配されるゲームにおいて、一度でも負けることは許されません。ソリアはクメール・ルージュの中に身を置くことで、ムイタックは農村に独自のルールを導入することで生き延びていきます。しかし、そんな2人の2度目の出会いは悲劇的なものだったのです。

本書は「SF」とのことでしたが、上巻を読む限りでは「マジックリアリズム」的な要素を強く感じました。輪ゴムが切れることで村人の死を予感する少年、土と会話して土を操る力を持つ農民、脳内の綱引きで行動を決定する軍人、問題を石に託す村長らの存在が浮くことなく、物語に深みを与えてくれています。下巻では近未来を舞台として、2人の勝負が繰り広げられていきます。

2019/4