りぼんの読書ノート

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京都伏見のあやかし甘味帖 2(柏てん)

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理不尽な退職勧告と婚約者の浮気とで、29歳にして人生計画が木っ端微塵に砕け散った小薄れんげ。「そうだ、京都行こう」と思い立って伏見の民泊に長逗留しているところで、伏見稲荷の神徒という生まれたての子狐くろに懐かれて怪異と出会う一方で、民泊の主人で甘いものに目がない草食男子の虎太郎に癒され始めたのが第1巻の物語。

本書ではいきなり、伏見の母狐神で恐ろしい白菊に呼び出され、逃げ出した「鉄輪の鬼女」を探し出してほしいと頼まれます。夢枕獏さんの『陰陽師』にも登場した、男に捨てられて鬼になってしまった女性の霊ですね。れんげとクロは、鬼女ゆかりの貴船神社、宇治の橋姫神社、晴明神社を探し回り、なんと老人姿の安倍晴明の霊にまで出会ってしまうのですが、鬼女は思いかけない人物に執り付いていたのです。そういえば、晴明の母親も「信太の森の葛の葉」という狐でした。

自分を振った元婚約者を忘れきれないのはれんげも同じ。その男が京都までれんげを追ってきたとなれば、心が揺れるのも当然ですね。しかしここで元の鞘に収まったら、物語が終わってしまいます。それよりも、新しい環境に身を置いたれんげ自身が、既に過去を振り切っていたのかもしれません。

老松の夏柑糖、朧八瑞雲堂の三笠、叶匠壽庵のあもなど、幕間に登場する虎太郎の「甘味日記」も楽しいのですが、伏水所蔵小路で銘酒を飲み歩くれんげの「うわばみ日記」もよかったですね。れんげの不思議でゆるやかな日々は、まだまだ続きそうです。

2019/4