りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

世界の終わりの天文台(リリー・ブルックス=ダルトン)

「どうやら人類は滅亡するらしい」から始まる紹介文はショッキングですが、本書の中では人類がたどった運命は明らかにされません。代わりに描かれるのは、何の情報も持たずに孤独の極みに遺された2組の人々の物語です。

 

ひと組めは最後の撤収便への搭乗を拒んで北極圏の天文台にひとり残った孤独な老学者オーガスティンが、取り残された幼い少女アイリスとおくる奇妙な同居生活。才能に恵まれていたものの人との交際が苦手だったオーガスティンには、ともに最期の時をすごしたいと思う相手はいなかったのです。若い頃に交際していた女性とも、彼女が生んだ彼の娘とも、遠い昔に音信不通になっていたのです。もうひと組は、通信士サリーの視点から語られる、木星からの帰還途上にある惑星探査船の6名の乗組員。彼女は地球に元夫と十代の娘を残して、自分自身のキャリアのために宇宙での長期の仕事を選んだことに後ろめたさを感じています。やがてサリーは、オーガスティンとの交信に成功するのですが・・。。

 

本書は、愛を知らないオーガステインと、愛情の少なさを気に病んでいるサリーがそれぞれに、極限状態の中でかたくなな心を開いていく物語なのでしょう。北極圏や宇宙船という環境や、他の全世界との通信の途絶という問題は、そのための背景であるように思えます。人が生きていくためには、まだ失いたくないと思える存在が必要なのでしょう。

 

著者は読書会用の質問例を3つ挙げています。ネタバレになってしまうかもしれませんが、自分がどう読んだかを記しておきましょう。

 

Q「アイリスの存在をどう受け入れたか?」

A「どこかで説明されると思って、ただそのまま受け入れて読み続けました」

 

Q「北極圏パートでは何が起きていたと思うか?」

A「アイリスはオーガスティンの心が生み出した、幼い娘の幻想でしたね。ラストまで気づきませんでした。本書の姉妹作として、アイリスが北極圏までたどり着き、オーガスティンの死後に独りで生き延びていく物語が1作書けると思っていたほどです。」

 

Q「どの時点でオーガスティンとサリーの関係に気付いたか?」

A「サリーが、砂漠で母親と星を眺めたという子供時代の回想(127P)で気付きました」

 

余談になりますが、本書はジョージ・クルーニー制作主演のもとで「ミッドナイト・スカイ」とのタイトルで映画化されています。設定も役柄も全く異なっていますが、宇宙のパートでは、彼が直前に出演した「ゼロ・グラビティ」との共通性を感じました。

 

2023/7