りぼんの読書ノート

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ランドスケープと夏の定理(高島雄哉)

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日本にもグレッグ・イーガンのようなハードSF作家が登場していたのですね。近未来の宇宙空間を舞台にして、超天才の姉テアに翻弄されながら、世界を激変させることになる新たな宇宙定理を見出していく弟ネルスの物語。第1から第3までの3つの定理に、3編の中編が対応しています。 

 

ランドスケープと夏の定理」 

脳内記憶や人格の転送・復元実験を行っているテアが大学生のネルスを呼び出したのは、偶然発見した「異なる宇宙を内包したドメインボール」に弟の人格を送り込みたかったから。しかし物理原則すら異なる異次元宇宙から戻ってきたネルスの人格は、本人と架空の妹ウルスラとに分裂してしまいます。第一定理は「あらゆる知性は互いに翻訳可能である」 

 

「ベアトリスの傷つかない戦場」 

北極圏の大学院へと戻ったネルスは、指導教官のベアトリスとともに「知性理論地図」の構築中。第一定理を発展させた第二定理「現存する理論は強制的に時間発展させることが可能である」の実証に努めているのですが、これは政治権力や軍部の注目を引くことになり、ネルスは北極圏共同体で発生したクーデターに巻き込まれてしまいます。ドメインボールを超高速計算機として活用すべく、テアが一千兆もの自身んの複製人格をそこに放り込むなんて、想像を絶しますね。ひとりだけでも無敵なのに。 

 

「楽園の速度」 

かくして姉弟は第三定理「未来の理論を翻訳して理解できることは可能である」にたどりつきます。ここまできたら一種のタイムマシンですね。「今の私では知ることはおろか、想像もできないことを、私は知りたい」と言うテアが結婚するというオマケつき。そうそう、ネルスやベアトリスと結婚していました。ドメインボールの中に残って、姉弟のために仕えることを決意する架空の妹ウルスラの健気さが、涙を誘います。 

 

万物理論』や『順列都市』や『シルトの梯子』など、イーガンの作品を彷彿とさせてくれるハードSFでした。このような「トンデモ理論」をリアルに思わせてくれる作品に出合えるから、SFは楽しいのです。 

 

2020/5