りぼんの読書ノート

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極北へ(石川直樹)

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著者は人類学、民俗学などの領域に関心を持つ写真家で、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら作品を発表し続けている人物です。そんな著者が20歳の時のデナリ山登頂を出発点として、アラスカ、グリーンランド、カナダ、ノルウェー、そして2度目のデナリに至る北極圏周辺の旅を綴った紀行エッセイです。

 

著者は本来の意味での冒険家ではないので、本書に綴られているのは現地の方々との交流の記録が中心です。、

アンカレジでは後に北極で命を落とす河野兵市氏に遭遇し、フェアバンクスでは犬ぞりのマッシャーとなった日本人を訪ね、シトカやシシュマレフでは星野道夫氏の遺作に登場した方々と出会います。

 

グリーンランドのヌークやイルリサットではイヌイットの人々を、ノルウェー北極圏ではトナカイとともに暮らすサーメの人々を、世界最北の居住地スヴァルバール諸島ではロシアから渡ってきた人々の末裔を訪ね歩きます。そして本書には記されてはいませんが、ヒマラヤ登山に魅せられた十数年を経て2度目のデナリへ。初めてのデナリ登頂時には高度障害に苦しみ、仲間に助けられてようやく登頂を成し遂げた自分の弱さを思い知らされたという著者が、18年後の最登頂時には単独行で充足感を覚えるまでになっていました。本書は紀行文であると同時に、青年の成長物語でもあったのです。

 

2022/4