りぼんの読書ノート

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オルガ(ベルンハルト・シュリンク)

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19世紀末に生まれて激動の20世紀を生き抜けたヒロイン、オルガは魅力的な女性です。幼くして両親を亡くし、農村の祖母に引き取られたオルガは、誰にも媚びないまっすぐな性格の女性に育ちます。教育を受けて経済的に自立するために、祖母の反対を押し切って女子師範学校に進学。農場主の息子ヘルベルトと恋仲になって彼の両親から猛反対を受けながらも、交際を続けます。

 

しかしオルガとの交際では筋を通したヘルベルトも、世紀の変わり目に起こった「世界に冠たるドイツ」の大合唱に飲み込まれてしまいまいた。ドイツ領南西アフリカの防衛部隊に志願して原住民と戦い、退役後は探検家となって北極圏への無謀に出たまま、消息を絶ってしまうのです。悲嘆にくれるオルガでしたが、彼女は20世紀のドイツを襲った数々の困難を耐えて生き延び、1971年に謎めいた死を遂げるのです。

 

オルガという女性は、『魅せられたる魂(ロマン・ロラン)』のアンネットを思わせてくれます。確かに19世紀半ばにフランスの中産階級に生まれたアンネットとオルガの間に共通点は少なく、思想的にも大きく異なっています。オルガが否定するのは、ビスマルクがドイツにもたらした夢想的で身の丈に合わない拡大・拡張主義であり、ナチズムもその延長線上にあるとみているようです。生涯ずっと理想主義者であり、最後には共産主義に共感を示すアンネットとは対照的です。

 

ではなぜこの2人に共通点を感じたのでしょう。2人とも未婚の母として過酷な運命に翻弄されながらも懸命に生き延び、自分の信念を曲げることなく最後まで貫き通した女性であることに、強烈な印象を受けたということのようです。『朗読者』のハンナや『階段を下りる女』のイレーネは他者によって語られた女性でしたが、第3部の手紙という形式ではあるものの、オルガは自分自身で自分の生き方を語った女性であることも、アンネットとの共通点を感じた理由のひとつであるように思えます。

 

2022/3