りぼんの読書ノート

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混沌の城 上下(夢枕獏)

西暦2012年に起きた大異変によって文明社会は崩壊。あらゆる大陸が移動し、月が地球に近づき始め、世界中で大地震が起こり、突然変異種が無数に発生し、妖魔のような生命体が跋扈し始めたのです。それはいったい何が原因だったのでしょう。

 

大異変から数十年後の日本は、幸か不幸か「マッドマックス2」や「北斗の拳」のような無法状態には陥ることなく、戦国時代のように各地に群雄が割拠していました。江戸と京は大異変の原因を作ったとされる2つの勢力に支配されており、物語の舞台となる金沢の主は蛇紅という魔人だったのです。彼はまるでフォースのような「螺力」を操っているのですが、どうやらその力は大異変とも関わっていたようです。かつて織田信長も手に入れることができず、金沢の地下に眠り続けている大螺王とは、どのような存在なのでしょう。

 

豪剣を操る巨漢・唐津武蔵は、信州・武田のスパイらしき来輪左門や、マッドサイエンティストの九兵衛や、蛇紅によって金沢から放逐されていた蛟一族と手を組んで、魔都と化した金沢へと乗り込みます。彼らの目的はそれぞれ異なっています。大螺王の秘密を記した「天台の秘聞帖」や、生物兵器の蟲や、姿を現すことのない大魔人幻夜斎などのパワーワードが飛び交う異界の戦闘はどのように決着がつくのでしょう。

 

神の似姿とされる対数螺旋形状のオウム貝が不思議な力を有しているとの発想は、『月に呼ばれて海より如来る』や『上弦の月を喰べる獅子』にも共通しており、「螺旋サーガ」という物語群を生しているようです。この伝奇ロマンは、謎の入り口が巨大な分、謎の本体が尻すぼみになることが多いのですが、謎を最後まで解き明かさないことが、読者のみならず著者自身に対しても「サーガ続編」への期待を繋いでいるのかもしれません。

 

2023/7