りぼんの読書ノート

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青いパステル画の男(アントワーヌ・ローラン)

遺失物を巡って心温まるストーリーが展開されていく『ミッテランの帽子』や『赤いモレスキンの女』の著者のデビュー作は、骨董蒐集から始まる物語でした。

 

オークションハウスで自分そっくりの肖像画を発見したパリの弁護士ショーモンは、運命的なものを感じて高値で落札してしまいます。肖像画に描かれていた紋章を頼りに男の正体を探す旅に出たショーモンは、フランス革命の際に領地から逃亡した貴族が自分の祖先であることを知るのです。彼は行方不明になっていた当代の伯爵になりすまそうとするのですが・・。

 

後の2作と同様に、本書もまた「大人のおとぎ話」です。物語の背景にはパリの歴史があり、その歴史の重みを体現している骨董品には「魂がある」ということなのでしょう。日本なら「付喪神」にでも姿を変えてしまう所なのかもしれませんが、そこまで妖怪じみてはいないのがパリの洗練ですね。しかし、それまでの自分自身の過去を捨て、新しい人生で幸福を掴みそうになったショーモンは、はからずも自分が捨てたほかの骨董品から復讐されてしまうのです。

 

後の2作のような軽妙さに欠けるように感じたのは、物語が「幸福の対価」にまで及んでしまったからのように思えます。それとも自身の過去を捨て去った理由まで書きこんでしまったからなのでしょうか。もちろん本書は著者の原点です、パリの洒脱さと、人生を肯定的に眺める視点と、スピード感あふれる奇想天外な展開は、本書の中で既に融合されているのです。

 

2023/7