りぼんの読書ノート

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そして山々はこだました(カーレド・ホッセイニ)

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アフガニスタンで生まれ、15歳のときに一家でアメリカに亡命し、その後アメリカで医師となった著者の第3作です。第1作のカイトランナー(文庫版改題(君のためなら千回でも)は、世界的なベストセラーになりました。

本書は、幼いころに都会の裕福な夫婦に引き取られた妹パリと、妹のことを想い続けた兄アブドゥラが、長い年月の後で再開を果たす物語。しかし、その過程も結論も、決してありきたりのハッピーエンドではありません。作者が冒頭に置いた「子供を連れ去る巨人の昔話」では、「忘却」は「残酷」であると同時に「慈悲」でもあることが示されています。

本書には多くの人物が登場して、多くの物語が紡ぎあげられていきます。パリを引き取ったワーダティ家の主人を最後まで看取った運転手ナビは、主人への忠誠心と奔放な夫人ニラへの思慕を抱きながら、アフガニスタンが荒廃していく過程を見届けていきます。

詩人の魂を持っていたニラは、カブールでの抑圧された生活に耐えきれず、幼いパリを連れてヨーロッパへと出奔。しかし、養女と同名の都市に住んだニラは、優れた芸術家ではあっても、良き母親ではなかったようです。

さらには、パリたちの継母パルワナと体が不自由な双子のマスーマ。カブールに医療支援にきて、ナビが遺贈された家に住むギリシャ人医師マルコスと幼馴染のタリア。医者になって帰郷し、故郷の人々の悲惨な暮らしに胸を痛めるアフガン・アメリカンのイドリスと従弟のティムール。パキスタンの難民キャンプからも追い出されたアブドゥラとパリの末弟の息子ゴーラムと、彼らの旧居を接収していた司令官の息子アデル・・。

読者が困惑するほど多彩なのですが、時代に翻弄された兄妹を描くためには、アフガニスタンの近代史を綴る必要があり、そのために多彩な人物の多様なエピソードが求められたということなのでしょう。

2015/7