りぼんの読書ノート

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Q(ルーサー・ブリセット)

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宗教改革に揺れた16世紀前半の欧州史を、「権力に反抗し続ける無名の主人公」と「ローマ法王庁密偵Q」との暗闘の歴史として再構築した本書は、イタリアの匿名の著者たちによる共著として出版された作品です。

1517年、ルターによる贖宥状批判に始まった宗教改革は、欧州の微妙なパワー・バランスを揺るがしていきます。ドイツには、カトリックを奉じてハプスブルク家の広大な領土を保とうとするカール5世と、皇帝からの独立性を強めつつあったドイツ諸侯。フランスにはハプスブルグ家と対立するヴァロア王室。イギリスには独自の宗教改革を進めるヘンリー8世。ローマには、それら全てをコントロールしていこうとする法王庁。さらに、イスタンブールから欧州をうかがうオスマン帝国のスレイマン1世。

パワー・ゲームの中で搾取され続けた農民たちは、聖職者ミュンツァーに率いられて蜂起したものの、ルター派の裏切りにあって壊滅。10万人の死者を出した戦場から脱出した主人公は次に、北ドイツのミュンスターで再洗礼派自治体の成立に協力したものの、過激化した指導部は、包囲戦の中で自壊。さらに安息の地のようだったアントウェルペンの自由な共同体も、宗教裁判所に襲われてしまいます。

なぜ、地上の楽園を求めた全ての計画は狂い、悲惨な結末を迎えたのか。その背後に「Q」と呼ばれる密偵の存在があることに気づいた主人公は、ヴェネツィアで最後の勝負を仕掛けます。ユダヤ人富豪の後援を得て出版業に携わり、カトリックが「異端」と定めた「禁書」を広めると同時に、「Q」を狩り出そうとして罠を仕掛けるのですが・・。

フレスコ画の背景にいる」者たちを、歴史の変革者として表舞台に登場させた手法は見事であり、「常に権力と闘って負け続けた」主人公も魅力的です。本書はこれで完結していますが、著者たちの思想は、本書の主人公を別の名前を持つ脇役として再登場させたアルタイへと引き継がれていきます。

2015/7