著者は1948年に生まれたバルセロナ出身の作家なので、もう大ベテランであり、これまでにも訳書も数冊出ているようですが、今まで知りませんでした。
本書は、著者が20代の頃に2年間、パリでマルグリット・デュラスの所有するアパートに住んで文学修業をしていた時期を回想する作品のようですが、もちろんフィクションなのでしょう。ロラン・バルト、ジョージ・オーウェルの妻、ジョルジュ・ぺレック、イザベル・アジャーニ、ミッテラン大統領など、たくさん登場する著名人との出会いは本当にあったことなのかどうか。さすがに大家のマルグリット・デュラスとは会っているのでしょうが。
ヘミングウェイのそっくりさんコンテストに出演して撥ねられたという冒頭のエピソードからもわかるように、本書は『移動祝祭日』へのオマージュなのでしょう。著者が出会ったという著名人たちは、ヘミングウェイがパリ時代に付き合った、スコット・フィッツジェラルド、ガートルード・スタイン、エズラ・パウンドらをイメージしているのかもしれません。そもそも本書のタイトルは『移動祝祭日』の最終章のタイトルなのです。
しかしながら、後のノーベル賞作家が描いた貧しくも幸福だったパリ時代と異なり、本書に流れているのはアイロニーの精神です。小説家を目指しながら処女作『教養のある女暗殺者』を書きあぐねていた著者が、パリで絶望していた青春の日々を愛おしく思う本心を、パロディめいた表現の陰に隠した作品と読み取ったのですが、いかがでしょう。
2018/11