りぼんの読書ノート

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寒い国から帰ってきたスパイ(ジョン・ル・カレ)

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冷戦の最中の1963年に出版された、巨匠初期の傑作です。後の「スマイリー3部作」の主役たちは端役で登場。近作のスパイたちの遺産で本書の背景が描かれたのを機に手に取ってみました。こんな有名な作品が未読だったとは!

イギリス情報部がベルリンに築いていた諜報網が、東ドイツ諜報部副長官のムントによって壊滅させられるところから物語が始まります。責任者リーマスは左遷された後に酒に溺れて解雇され、食料品店で暴力をふるって収監されるまでに落ちぶれてしまいます。しかしこれは、情報部を率いるコントロールが立案した、ムントを排除するための作戦でした。案の定接近してきた東ドイツ諜報局長のフィードラーに対してリーマスは、ムントが二重スパイである証拠を提示し、作戦は成功するかに思われます。

しかしこの作戦は、ムントの手に落ちていた恋人リズの証言によって崩壊させられるのです。なぜイギリス情報部の作戦は、偽装転向を見破られるようなツメの甘いものだったのか。しかも全くの部外者であるリズの証言によって暴露されるほどの素人っぽさを露呈したのか。そもそもムントは、リズが鍵であることをなぜ知っていたのか。最後になって情報部の真の計画に気づいたリーマスだったのですが・・。

著者は本書によって「個人は思想よりも大切であることを示したかった」と述べています。その主張は「スマイリー3部作」や、リトル・ドラマー・ガールなどの冷戦時代の代表作のみならず、その後の全ての作品において貫かれていくのです。

2018/11