りぼんの読書ノート

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コゼット 上(ローラ・カルパキアン)

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ヴィクトル・ユゴーの代表作であるレ・ミゼラブルは、1832年の六月暴動を生き延びたマリウスと養女コゼットの結婚を見届けたジャン・ヴァルジャンが静かに世を去る場面で終わります。しかしこれ以降のパリでは、 第二共和制を誕生させた1848年の二月革命、政府軍が労働者を弾圧した六月蜂起、1851年のナポレオン3世即位という激動の時代が続くのです。若い2人の純愛がまっとうされたのかどうか、ずっと気になっていました。ユゴーの生涯を参考に著された本書は、そんな読者たちの疑問への回答です。

国王ルイ・フィリップによる立憲君主制のもとで政治の実権を握ったのは、ブルジョワ階級でした。かつての絶対王政時代よりは民主的ではあるものの、産業革命アルジェリア出兵などの帝国主義化が進む中で、下層民衆のプロレタリアート化が進み、社会の矛盾が蓄積されていきます。ジャン・ヴァルジャンの遺産を用いて「ラ・リュミエール紙」を発行したマリウスは、起訴されても収監されても民衆の味方としての立場を貫き続けます。

息子ジャン=リュックと娘ファンテーヌを生んだコゼットは、ポンメルシー男爵夫人として社交界で才女ぶりを発揮。しかし亡父の生涯を知る彼女もマリウスと同じ政治的信条を有しており、夫の不在時には代理で記事を書くなどして、ジャーナリストとしての実力を身に着けていくのです。そんな中でパンを盗もうとした少年ムクドリを更生させたことが、後に大きな意味を持ってきます。

そして1848年の二月革命ルイ・フィリップ王は退陣。しかし第二共和制政府は急速に保守化して、六月蜂起の際に労働者に武器を向けて民衆の支持を失い、ルイ・ナポレオンの台頭を許すことになります。一貫して民衆の立場を守ろうとした「ラ・リュミエール」ですが、時代の大波を覆すことはできませんでした。

多くのページが、目まぐるしい社会情勢の変化に割かれているのはやむをえないのでしょう。そんな中で、かつてジャベールのスパイであったクレロンが、その時々の権力の手先としてマリウスとコゼットを狙い続けています。さらにはテナルディエ夫妻の次女でエポニーヌの妹のゼルマも、2人に対して憎しみを顕にして罠を仕掛けようとしています。『上巻』は長いプロローグのような位置づけのようですが、下巻は全編がクライマックスです。

2018/11