りぼんの読書ノート

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フランス王朝史3-ブルボン朝(佐藤賢一)

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フランス中世から近代にかけての小説家として第一人者である著者が『カペー朝』、『ヴァロア朝』に続いて著わした、3つの王朝の中で最も華やかな時代が『ブルボン朝』。しかし200年続いたこの王朝には、たった5人の君主しかいなかったのです。 

 

初代のアンリ四世については、『ヴァロア朝』のラストでかなり描かれたのですが、あらためて多くのページが割かれています。ユグノー戦争を治めてフランスの再統一を果たした王朝の創始者であり、「大王」とも呼ばれる存在なのですが、彼の本性は日和見主義者だったのかもしれません。新教と旧教の間を行き来して、その時々で信条を変えた節操のなさが気になります。もっともそんな人物だったからこそ、このような重要な役割を担うことができたのでしょう。 

 

2代目のルイ13世は「正義王」と呼ばれているものの影が薄い。『三銃士』のダルタニアンが仕えたのも皇后アンヌだったわけだし、悪役だってリシュリュー枢機卿だったし、どうしても脇役感がぬぐえません。わざわざ介入した三十年戦争では、得るものもなく、重税によって民衆の困窮を招いただけだったようです。 

 

3代目の「太陽王ルイ14世は、絶対君主制を確立し、ヴェルサイユ宮殿をはじめとするバロック文化を花開かせた人物とされていますが、その実態は意外と脆弱な体制だったようです。結局のところ中央集権化とは、蒸気機関や電信によって遠隔地との距離感を短縮できるまでは完成しえなかったようです。著者は「フランスにおけるバレエ大好きの太陽王」と「日本における犬公方・徳川綱吉」が同時代人であったことに着目していますが、戦争が続いた時代の反動が文化の成熟を必要としたとの指摘は素晴らしい。 

 

4代目の「最愛王」ルイ15世もまた、治世が長かった割に印象が薄い。ポーランド継承戦争オーストリア継承戦争への参戦からは得るものはなく、イギリスとの7年戦争ではアメリカの権益を失い、国家と国民を窮乏化させてフランス革命の遠因を創った君主です。この時代には啓蒙思想家を生まれましたが、一番印象に残るのはポンパドゥール夫人による愛妾政治かもしれません。 

 

そして5代目のルイ16世で、ブルボン朝はいったん終わります。ナポレオン没落後の王政復古時代にルイ18世とシャルル10世の時代が15年間だけ復活しますが、これはおまけのようなもの。フランス革命を巻き起こした無能な人物として扱われることが多いルイ16世ですが、著者の評価は意外と高い。もう少しでフランス革命の嵐を切り抜けたかもしれないとまで述べているのです。彼の最後の誤算は、革命は法を超えると気づかなかったことだったようです。 

 

新書で「英仏百年戦争」や「フランス王朝史」を纏めあげ、小説で『フランス革命』と『ナポレオン』を著わした著者には、その後の19世紀フランスの歴史も描いて欲しいものです。フィクションであっても、ノンフィクションであっても。 

 

2020/5