りぼんの読書ノート

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旅に出る時ほほえみを(ナターリヤ・ソコローワ)

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「サンリオSF文庫」に収録されていた、1965年の作品が白水社から復刊されました。SFというより寓話性の高い作品ですが、扱われているテーマは現代的です。 

 

「怪獣」の創造者は、ただ「人間」と呼ばれています。この怪獣は金属製でありながら、人工血液を有し生肉を食料とするもので、前肢の鑿岩機で地中を進む能力に加えて、拙いながら人間の言葉も話すというもの。独裁者である「総統」が怪獣を最終兵器として用いようとすることで、物語が動き出します。 

 

友人の「科学芸術院総裁」らに妥協を促されたものの、抵抗を貫いた「人間」は設計図を焼き捨てて怪獣を深地下に放逐して自由を与えます。しかし「人間」に与えられたのは、死よりも恐ろしい忘却の刑だったのでした。 

 

この作品から何を読み取るかは難しい。ソルジェニーツインのように歴史から抹殺されることの恐怖を描いたのか、それとも実は忘却こそが救済への道だというのか。歴史的な事件を象徴しているのか、それとも普遍的なことを伝えようとしているのか。作中に登場する「旅に出る時ほほえみを」という歌の歌詞は、もはや何者でもなくなった「人間」を祝福しているかのように読み取れるのですが、いかがでしょう。 

 

2020/5