りぼんの読書ノート

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活版印刷三日月堂1.星たちの栞(ほしおさなえ)

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一文字ずつ活字を拾って組版を造りあげる活版印刷は、凹凸があって味のある作品を産み出せるものの、前工程の煩わしさと膨大な活字の保存がネックであり、デジタル印刷の普及とともにほぼ絶滅状態。現在では、名刺や葉書程度にしか用いられていません。小江戸・川越にある古びた印刷所「三日月堂」も店主夫妻が亡くなってから長らく空き家になっていましたが、孫娘である月野弓子が地元に帰ってきて物語が動き始めます。 

 

弓子の背中を押してくれたのは、町の情報センター的な役割を果たしている、川越運送店一番街営業所長のハルさんでした。彼女の手助けや口コミもあって、少しずつ注文も舞い込んできます。しかしこの時代にあえて活版印刷を頼むのは、どのような人たちなのでしょう。本書は、それぞれに事情を抱えながら、活版印刷の持つ温かみに触れて生活に潤いを取り戻していく依頼人たちの視点から描かれた、連作短編集です。 

 

「世界は森」 

自分の卒業祝いにもらった名前入りのレターセットを思い出しながら、息子の進学祝いにレターセットを送った女性。彼女がそのレターセットを最後に使ったのは夫へのラブレターでしたが、息子が最初に書いたのは母親への感謝の気持ちでした。 

 

「八月のコースター」 

伯父から珈琲店を引き継いだものの、コーヒーの淹れ方にも店の経営にも自信を持てないでいる青年が依頼したのは、ショップカードと俳句入りのコースター。彼はそこに過去の恋人の記憶も封じ込め、新しい店の形を模索していきます 

 

「星たちの栞」 

高校の文芸部顧問である女性教師は、文才を持ちながら家庭に問題を抱える女生徒と、彼女に複雑な思いを抱く部長を見守りながら、自身の過去を重ね合わせていきます。文芸誌に挟む栞は、彼女たちにジョバンニとカムパネルラの友情を思い出させてくれます。 

 

「ひとつだげの活字」 

祖母の遺品の活字セットで結婚式の招待状を作ろうとした図書館司書でしたが、残っていたのは一組のひらがなだけ。実は彼女には結婚への迷いもあったのですが、婚約者とともに作業をしていく中で心も固まっていきます。 

 

既に人気のシリーズのようで、既に6巻まで書き綴られています。活版印刷を通じて人々が繋がっていくほっこりした物語ですので、激しめの本を読む合間にでも少しずつ読んでいこうかと思います。 

 

2020/5