りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014/6 ペテロの葬列(宮部みゆき)

宮部みゆきさんの新作は、いつもながらの高水準の作品でした。昨年末に「日経小説大賞」を受賞した『スコールの夜』は「雇均法以降の女性総合職の大変さを描いた作品」とされていますが、審査員の方々が会社のことをわかって言っているのかどうか・・。私はピンと来ませんでしたが。
1.ペテロの葬列(宮部みゆき)
『誰か』と『名もなき毒』に続く「杉村三郎シリーズ」の第3弾です。本書で主人公が向き合うことになったものは「伝染する悪意」でした。バスジャック事件に遭遇した乗客と運転手に、自殺した犯人の老人から送られてきた慰謝料とは何なのでしょう。調査を始めた杉村は、事件の裏に隠された真の動機に気づいていくのですが・・。いつもながら完成度の高い作品です。そして「驚愕のラスト」が読者を待っています。

2.人間の性はなぜ奇妙に進化したのか(ジャレド・ダイアモンド)
原題は「Why is sex fun?」。キワモノのような書名ですが、『銃・病原菌・鉄』と『文明崩壊』の著者による、れっきとした文明論です。「結婚、共同での子育て、社会の一員としての夫婦関係、内密な性交、排卵の隠蔽、閉経」というヒトの性生活における特性が、他の動物と比較してみると極めて奇妙である理由は何なのでしょう。著者の推論は冴えまくります。そして「メスの戦略の完成形」には、世間の男たちは震え上がるしかありません。

3.草の花 俳風三麗花(三田完)
日暮里の句会で、昭和7年に出会った3人の女性たちの友情のはじまりを描いた俳風三麗花の続編は、昭和10年から始まります。帝大助教授の妻となったちゑは流産。東京女子医専を卒業した池内壽子は医師となって満鉄大連病院へと赴任。浅草芸者の松太郎は六代目菊五郎の妾になっていました。3人の女性たちは、戦争の時代をとう生き抜いたのでしょう。激動の時代を描きながらも、しっとりとした作品です。

4.順列都市(グレッグ・イーガン)
記憶や人格をコンピューターにダウンロードさせるだけなら、今どき珍しくもない設定です。しかし本書では、その擬似生命体に宇宙の寿命より長い「不死性」を与えるのです。さらには「人間宇宙論」の萌芽形態すら登場するハードSFの傑作です。ただ、無限の時間を生きる人間の心理状態については、あまり力を注がなかったように思えるのが難点です。



2014/6/29