りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008/11 ガラテイア2.2(リチャード・パワーズ)

『ガラテイア2.2』や『おそろし』をファンタジーと言ってしまっていいものでしょうか。でも、これらの本は紛れもなく、素晴らしいファンタジーなのです。次点にあげた『詩羽のいる街』も同様です。上質のファンタジーというものは、著者の世界観や人生観の上に成り立つものなのですから。
1.ガラテイア2.2(リチャード・パワーズ)
小説家である「リチャード」は、人工知能へレンへの文学教育を依頼されるのですが、ヘレンからの根源的な問いは、リチャード自身に対しても、言葉や過去の恋愛の意味の再構成を迫ってきます。「世界」を、「人格」を、理解することがなんと難しいことか。複雑で重層的な物語ですが、2つのプロットが融合されるときに訪れるのは深い感動です。本質的な読書の喜びを感じさせてくれる、素晴らしい作品でした。

2.おそろし(宮部みゆき)
時代小説の体裁をとってはいるものの、これはファンタジーですね。心に傷を負った「おちか」への荒療治は、人々から「変わり百物語」を聞くことでした。不思議で怪しい怨念は、語られ聞かれ、つまりは理解されることで浄化されていくようです。それは「おちか」にもある種の力を育んでくれたのですが、彼女が最後に対決しなければならないのは、彼女自身の心の闇だったのですね。

3.ゾリ(コラム・マッキャン)
1930年代のスロヴァキアでファシストに家族を惨殺されたジプシーの少女ゾリは、戦後、社会主義政権下のチェコで「プロレタリア詩人」として一躍文壇の寵児となるのですが、ジプシーへの強制的な定住政策が実施されるに至って、仲間を裏切った者として追放されます。ひとり徒歩でパリを目指したゾリが行き着いた先は・・。

4.ブルー・ヘブン(C・J・ボックス)
カナダ国境にも近い北部アイダホで幼い姉弟が目撃した殺人事件は、ロサンジェルス市警を退職した元警官たちが起こしたものでした。犯罪捜査のプロとして保安官への協力を装って子どもたちを追う犯人たちに立ち向かったのは、寂れた牧場の老牧場主。自然派の著者らしく、大自然を汚染する大都会の犯罪に対する怒りが底流に流れていますが、それだけではありません。テンポのいい展開で、読み物としておもしろく仕上がっています。

5.運命の日(デニス・ルヘイン)
アメリカの「黄金の1920年代」がはじめる前夜には、第一次世界大戦の終局による不況時代がありました。警官ストライキに端を発するボストン大暴動へと否応なしに押し流されていく運命が、主人公たちを襲います。一方にある貧富の差や人種の差と、もう一方にある家族愛や友情が対照的に描かれた渾身の大作。ボストン時代のベーブ・ルースと主人公たちの出合いを描いたプロローグとエピローグには、独立した短編の趣を感じます。



2008/12/1