りぼんの読書ノート

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時のかさなり(ナンシー・ヒューストン)

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天使の記憶で、20世紀ヨーロッパの悲劇を背負ったような男女の痛ましい出会いを描いたナンシー・ヒューストンさんの、新潮クレストブックからの2冊目の本。

本書の舞台は、ドイツを起点にして、カナダ、イスラエルからアメリカにまで広がります。ただし、物語は時系列を遡る順番で記述されます。4章からなる4つの時代の物語を語るのは、それぞれの時代に6歳だった少年や少女たち。4代に渡る60年の、波乱に満ちた一族の年代記から明らかになるのは、現代史の悲劇です。

2004年。イラク戦争に突入した時代のカリフォルニア。過保護に育てられて自意識過剰の少年ソルは、両親に連れられて一族の故郷ドイツを訪れます。同行するのは、車椅子生活者ながら現代史研究家として講演で世界中を飛び回っている祖母のセイディと、世界的な歌手である曾祖母のエラ。でもソルには、どうしてエラが、姉ゲルダと和解する必要があったのか理解できません。

1982年。レバノンに侵攻した時代のイスラエル。後にソルの父親となるランダル少年は、両親とともにイスラエルに移住するのですが、彼がそこで出会ったものは、幼い恋心を抱いた相手のアラブ人少女からの冷たい視線。

1962年。キューバ危機時代のカナダ。何をやっても不器用な少女セイディは、歌手で綺麗で奔放母親エラと離されて、祖父母に育てられますが、母が養女であり、祖父母と自分は血が繋がっていないと知ってしまいます。

1944年。第二次世界大戦末期のドイツ。歌の好きな少女クリスティーナ(後のエラ)は、なぜカナダに移住することとなったのか。なぜ姉と仲違いしたのか。最後に明らかになるのは、クリスティーナの出生の秘密という痛ましい真実でした・・。「エラ」という名前の秘密が明らかになる場面ではついウルウル。この本はある意味で、波乱に満ちたエラの一代記だったのですね。

「6歳の視点」というのが実に効果的です。全てを理解しているわけではない6歳児は、期せずして「信用ならざる語り手」の役割を果たします。6歳の少年少女が不思議に思うことは、読者も疑問に思うことなのですから。

2008/12