りぼんの読書ノート

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ローンガール・ハードボイルド(コートニー・サマーズ)

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トレーラーパークの管理人をしている年老いた女性から、NYのラジオ局にかかってきた1本の電話。その女性は言うのです。祖母代わりとして気にかけ、トレーラーハウスに住まわせてあげていた19歳のセイディが姿を消したと。そしてセイディは、13歳だった最愛の妹マティを殺害した犯人が元義父のキースであると信じ、復讐を狙っているのではないかと。ラジオ局のDJは、ドキュメンタリー番組を制作する目的でセイディの行方を追い始めます。

 

その一方で、キースの行方を捜し求めるセイディの追跡行は壮絶を極めます。裏社会に飛び込んでいく若い女性が無事で済むはずもなく、祖母代わりだった女性の心配は「もうひとりまで死なせるわけにはいかない」というものでした。しかし意志の力と飛び出しナイフしか持たないセイディは、ハイウェーのダイナー、ヤクの売人、キースと付き合っていた女性、女性の兄でキースの友人であった地元の名士、寂れたモーテルの支配人と、次々と細い線をたどり始めます。

 

「世界から押し付けられた理不尽に復讐するために武器を取る少女」というテーマの最高峰は、ボストン・テランの『音もなく少女は』だと確信していますが、二重の追跡劇というスタイルで綴られた本書もなかなかのものでした。2人の娘の育児を放棄したダメ母のクレアの存在や、それでも母親を慕っていた妹のマティにセイディが告げた哀しい嘘がもたらした悲劇など、次第に明らかになってくる裏事情も説得力を持っています。そして読者はいつしかラジオ局のDJと同じ立場になって、セイディの復讐劇がたどり着く先を知りたくなるはずです。彼女を保護してあげたくなって・・。

 

2021/9