りぼんの読書ノート

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トーマの心臓(萩尾望都/森博嗣)

時代は富国強兵政策が進みゆく戦前の日本。舞台は良家の子息が通うキリスト教系の寮制高校。そこの生徒たちはドイツ系のニックネームで呼ばれているという設定。語り手は寮生のひとりで、ドイツ人と日本人の血をひくオスカーですが、彼にも出生の秘密があるようです。

 

物語は、美しい下級生トーマが亡くなったところから始まります。トーマの死後、オスカーと同室の親友ユーリに届いた手紙は、トーマの遺書だったのでしょうか。そんな時に現れた転校生エーリクは、トーマに生き写しの容姿を持つ美少年でした。しかしユーリはなぜかエーリクに対して必要以上に不愛想なのです。オスカーは、遺された思いに縛られているかのようなユーリを憂慮しますが、エーリクの母親が急死したとの知らせによって、物語は急展開していくのでした。

 

1970年代の少女漫画の傑作が、ミステリの名手によって小説化された作品です。時代背景や場所も変えられていますが、原作の雰囲気を損なってはいません。愛と死の狭間で揺れ動く少年たちの苦悩が、生き生きと伝わってきます。各章の扉に描かれた主人公たちの姿や、美しい詩のような少年たちの言葉が、極めて印象的でした。

 

2023/9