りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009/1 そろそろ旅に(松井今朝子)

1月には松井今朝子さんの本を3冊も読んでしまいました。中でも『そろそろ旅に』は、十返舎一九の青春時代を題材にして、一九という人物造詣を見事に作り上げながら、江戸後期の「文学界」事情をも描いた傑作だと思います。大阪で浄瑠璃作家としてデビューしたこともある一九の経歴は、40代半ばまで歌舞伎界に身を置いていた松井さんのキャリアとも重なり合ってもいるようです。

佐藤賢一さんの『小説フランス革命』シリーズは、年2巻のペースで全10巻構想とのこと。気合が入ってますね。ライフワーク級の作品であり、今後の展開も楽しみです。

1.そろそろ旅に(松井今朝子)
一箇所に落ち着けず、ぶらぶらと道草を繰り返していただけの若き日の十返舎一九が、ついに自分の進む道を見出して、独自性を生かした『膝栗毛』を生み出すまでの青春物語。いつも彼に現状肯定を促していた従者の正体に気づいたときには、それまでの物語を全部読み返してみたくなるでしょう。大技も小技も散りばめられた傑作です。

2.聖餐城(皆川博子)
ドイツ30年戦争の本質は「神聖ローマ帝国の解体」であり、そこから立ち上がったのは宮廷ユダヤ商人を担い手とした、新しい経済体制でした。もうひとつ時代を象徴したのは略奪で自らを養うしかない傭兵によって荒廃させられたドイツの国土と民衆の苦しみ。偶然交差した2人の青年の運命を軸に、馴染みの薄い時代を生き生きと描いてくれました。

3.小説フランス革命Ⅰ.革命のライオン(佐藤賢一)
フランス歴史小説の第一人者の佐藤さんが、全10巻を5年で書き上げるとのシリーズ。「いきなり不穏」となる第1巻では、「革命のライオン」と称されるミラボーが現実主義者の本領を発揮して、国王が招致した「三部会」を「憲法制定国民議会」へと変質させていきます。このときロベスピエールは、まだまだひよっこの弁護士。今後の展開が楽しみです。「★★」の評価は、とりあえずシリーズ開始の意気込みに!

4.銀河のワールドカップ
とにかく楽しい「少年サッカー小説」。個性豊かなメンバーが「楽しいサッカー」をモットーに大会を勝ち進み、ついにはスペインで銀河系軍団「レアル」と対決してしまうという、ありえない物語なのですが、監督の思いも少年たちも、生き生きとしているのです。フィールドが眼に浮かんでくるような、サッカーのプレイシーンの描写も見事でした。

5.本を読む女
ただ本を読むのが好きなだけの平凡な女の子が、父親の急死や、古い因習や、戦争という大きな時代の流れに巻き込まれていく中で、何度も現実に押し潰されそうになりながらも、読書を心の支えにして、故郷で小さな本屋を開くまでの半生記。モデルは著者のお母さん。作家となった娘が、母親と小説に対する愛情を込めた美しい作品です。



2009/1/31