運慶と言えば、表紙の写真にもなっている東大寺南大門の金剛力士像。もちろんそれ以外にも多数の名作を生み出した、平安末期~鎌倉初期を代表する仏師です。その作風は、本書の中で「知らぬふり仏」とも言われる、それまでの丸みを帯びて女性的な平安仏像とは明らかに異なる、量感に富みダイナミックで荒々しい武家好みのものでした。
思えば、運慶の生涯はそのまま、保元・平時の乱から源平合戦、さらには鎌倉幕府成立の功労者であった有力御家人の没落から実朝暗殺、そして承久の乱まで、戦乱のただなかにあったわけです。そんな運慶を、彼自身が荒ぶる魂を持ちながらも、戦乱を嫌い、悪事を行なっても念仏を唱えるだけで極楽往生できるという浄土宗に不信感を抱くという人物に仕立て上げたのは理解できます。
ではなぜ彼の最晩年の作品が、この世に戦乱を巻き起こした張本人とも言える北条政子・北条義時の姉弟像なのか。本書はその謎に迫ろうとした作品であると同時に、運慶自身が抱いていたであろう、戦乱と宗教に関する謎を解き明かそうとしたものなのでしょう。いや、単に「その時々の権力者の依頼で製作しただけ」という解釈も成り立つのですが・・。背景には、自身の戦争体験から「現代の戦乱の世」を憂う、著者の視点があるようです。
2009/1